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○佐藤家・前
表札が『陳』になっている。
門の前に黒い高級車が停車する。
運転手が降り、後部座席のドアを開ける。
レイと美花が車から降りる。
美花「立派な家ね」
レイ「古いだけです。住むには不便ですよ」
レイ「父は、裏庭のアトリエにいるはずです」
美花「お父さんも絵を?」
レイ「父は陶芸です。陶芸教室で子供に教える程度ですが」
迷わず庭の奥に進む。
〇佐藤家・裏庭のアトリエ
薄暗い室内。
陶器の欠片や粘土が散乱している。
壁に向き、轆轤を回すテツ。
アトリエの扉が開き、美花とレイが入る。
レイ「父さん、いる?」
テツ「まぶしい」
レイ「ごめん。すぐ閉めるよ」
扉を閉めるレイ。
レイ「すみません。父の目は光に弱くて」
テツ「何か用か?」
美花「陳 峻栄画伯の絵画を譲ってください」
テツ「またか」
美花「最高の条件を出せます」
テツ「一億出すという画廊屋を断った」
美花「二億では?」
梨紗の声「三億!」
美花「え!?」
アトリエの扉が開く。
梨沙は、紺のビジネススーツを着て、黒縁眼鏡を掛けている。
後ろに立つケンが、すぐに扉を閉める。
梨紗の前に、美花が立っている。
梨紗(アンタはウチの顔を覚えてへんやろ)
梨紗(茶髪の女子高生やったしな)
梨紗(そやけど、ウチはアンタを忘れた日が無い)
梨紗(今日で決着つけたるからな)
梨紗「先生。お約束通り、現金で三億円用意しました」
ケンがアタッシュケースを見せる。
美花「四億」
テツの背中がピクリと動く。
美花「現金ですぐに用意します」
ケンのスマホが鳴る。
ケン「ドバイからです」
メールを読んで微笑むケン。
梨紗「順調なようね」
ケン「はい、相手は[言い値]で買います」
梨紗「さすがはアラブの金持ちね。ということで、こっちは五億」
結城の声『五億まではポンポン上げろ。そしたら必ず言うはずや』
美花「絵を拝見させて下さい」
梨紗(ホンマに言うた。結城さんスゴい)
美花「陳 峻栄画伯の作品は五億の価値があると思います。でもそれは美術館に保管されているレベルであって、所蔵の作品は、」
テツ「玲栄、見せてやれ」
レイが 奥の戸棚を開けた。
『掛け軸』を取り出し、丁寧に広げる。
高岡が描いた見事な山水画。
裸電球の灯の下、緻密で大胆な風景が現れる。
結城の声『まず電球を変えろ。LED照明を外すんや』
美花「……」
美花は絵を見つめて言葉が出ない。
梨紗「大英博物館、故宮博物院、どちらの所蔵にも勝るとも劣らない名作‥‥」
ケン「動植物の繊細さ、自然風景の優美さ、正に、陳 峻栄画伯の作品‥‥」
テツ「子孫に1番良いものを残したい、と思ったようだ」
美花「ろく、」
開けた戸棚の中から、本が一冊落ちる。
下半分は粘土で汚れて見えないが、本のタイトルは、はっきりと読める。
美花「『初心者の陶芸入門』?」
息を呑む、梨紗、ケン、レイ、テツ。