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キュイ視点
フィオちゃんがうちのギルドにやってきて一ヵ月が過ぎた。最初のうちは見慣れないフィオちゃんにクーヘン兄さんやリッシュ、厨房の他のスタッフ達も様子を伺う雰囲気を出していたが、最近はそうでもなくなってきた。
フィオちゃんはヴァルターに付いて仕事を習っているみたいだ。そのため厨房に立ちっぱなしの僕らとスケジュール的に会う頻度も今のところ少ない。たまに会うとすればヴァルターに頼んでいた食材が届けられるときくらい。
1日の仕事を終えてそんな事を明日の準備をしながら考える。厨房に立って料理をするときは考え事なんてできないくらいに忙しいけど、こうして明日の準備をしているとなんとなく頭に浮かぶことを考えたりする。
「邪魔するぞ。」
振り返るとヴァルターとフィオの姿があった。
そう言えば、今日がその日だったことを思い出す。
「どうぞ。今、明日の準備をしていたところだったんだ。もう終わるから少し待ってて。」
そう言って手早く残りの準備を済ませて2人の方へ向かう。
「ごめんね。お待たせ。」
「いや。」
「ヴァルターもフィオちゃんもお疲れ様。今日は何を持ってきてくれたの?」
ヴァルターが見せてくれたのは小ぶりで真っ赤に熟した実。
「これはハルブドウという。ハルブドウには毒があってそのままだと食べられない。毒抜き方法を教えるから使ってみてくれ。」
「うん。わかった。実の形も色も綺麗だしすごく良さそうだね。それじゃあさっそくだけど教えてもらっていいかな?」
「ああ。」
ヴァルターに毒抜きを教えてもらっている間、フィオちゃんは邪魔にならないところに椅子を持ってきてそこで座りながらこちらを見ている。いつも食い入るように見ているけど、料理とかに興味があったりするんだろうか?
「以上が毒抜きの仕方だ。」
「うん。だいたいわかったよ。ちなみにだけど、ハルブドウの毒ってどんなものなの?」
ヴァルターに教えてもらったハルブドウの毒抜き方法をメモに残しながら後学のために聞いてみる。
「人が死ぬような毒はない。ただ、舌が痺れ呂律が回りにくくなる。」
「なるほど。」
メモが書き上がり、ヴァルターが見てくれている間に復習を兼ねてメモを見ながらハルブドウの毒抜きをやってみる。
毒抜きが完璧にできているかヴァルターに確認してもらう。
「しっかり抜けている。」
ヴァルターの許可が出ててほっと胸を撫で下ろす。いつも毒があるものを扱うときはいつも馴染みのある食材を使うときとは違う緊張感がある。
次はヴァルターの許可が出たハルブドウを生のまま試食してみる。
(んー、結構酸味がつよいな。後味は強い酸味の割にはすっきりしてる感じ。食感はサクサクする感じだからサラダとかに散らしてみてもいいかもしれない。)
「あの、キュイ様、いまお時間よろしいでしょうか。」
「ん?なにかな?」
珍しいことにフィオちゃんに話しかけられて、少し驚いてしまう。
「もし、キュイ様のお邪魔でなければ、キュイ様の作る料理を見学させていただきたいです。」
いつも熱心に僕の手元を見ていたからやっぱり興味があったんだなと少し嬉しくなる。
「今日の仕事は終わっているから好きにしていい。後は任せる。良くしてやってくれ。」
そう僕に言って、フィオちゃんの方に向き直ると、
「俺は先に上がる。明日明後日は休みだろ?しっかり休め。」
「うん。ありがとう。ヴァルターさんも。」
ヴァルターには敬語を使わない仲なんだなとふと思った。
ヴァルターはフィオちゃんの返事に笑顔を見せて、わしわしと頭を撫でて去っていく。
ヴァルターとフィオちゃんはなんだか歳の離れた兄弟か親子かそんなふうに見える時が良くある。
厨房のスタッフが、実はヴァルターの隠し子なのではと噂する声もあるくらいだ。
フィオちゃんと目が合う。
そう言えばまだフィオちゃんのお願いの返信してなかったなと思い出して、
「いいよ。そのかわり料理ができたら味見に付き合ってもらうからね。」
少し意地悪な言い方をして気恥ずかしさを紛らわした。