38 ◇結婚話
それからほどなくして、両家の顔合わせ、婚約、結納、結婚と珠代は幸せな
結婚をした。
珠代は兄の涼のお陰で人並みに好きな人との結婚が叶ったことを
心から感謝した。
だから、結婚後も家庭に影響の出ない範囲で、工場に関わってきた。
下働きの人間がするような掃除など誰に言われたわけでもないが
進んでやってきた。
トイレ掃除に工場の整理整頓に清掃。
トイレ掃除は工員たちの当番制になっているが、どうしても自分の家のようにとはいかず、仕上げは珠代が目を光らせてすることにしていたし、口頭では言わないものの、日誌のような形で『汚れ』を指摘するなど、工員や事務員など従業員たちが気持ちよく仕事のできる職場というのを徹底させることに一役かっているのである。
そのように珠代の新しく輝かしい新生活が2年目を迎えた頃、
4つ年の離れた兄の涼にこれまた幼馴染の板橋志乃との結婚話が
持ち上がることに。
しかし、珠代の時と同様にまたまた両親の横やりが入ったのである。
特に母親の言い方が辛辣であった。
「母さん、いままで志乃ちゃんにはやさしく接してきたじゃあ
ありませんか。それなのに……僕はまさかあなたまでが反対するとは
思ってもみませんでした」
――――― シナリオ風 ―――――
〇北山家・工場事務棟裏のトイレ清掃中/朝
珠代が袖をまくり、手ぬぐいを巻いてトイレの掃除をしている
便器の縁を丁寧に拭く
(N)
珠代は、将来の跡継ぎである兄のことを思い、工場の未来を思い、皆が気持ちよく働ける場所であってほしいとの願いを込めて、和彦との生活に支障のない範囲で、工場のことに今日も今日とて精を出しているのである。
〇北山家・応接室
珠代が実家を訪れた際、偶然耳にした会話
涼(声を荒げずに)
「母さん、いままで志乃ちゃんにはやさしく接してきたじゃあ
ありませんか。
それなのに……僕はまさかあなたまでが反対するとは
思ってもみませんでした」
兄の言葉から珠代は今交わされているのが兄と志乃の
結婚話なのだと知る