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第1節 千崎雄二『まだ、追えない』―6―
気付けば、雄二は佐山の胸倉を掴み上げていた。
「お、俺っ、百合香さんを新幹線の駅まで送りました」
「……あ?」
「百合香さんに……カシラのそばにいない方がいいって……そう話しました。それで……百合香さんが式後に……」
雄二に胸倉をつかまれたまま、佐山が眉根を寄せて苦し気に告白する。
佐山の話によれば、百合香はマンションで荷物を軽くまとめた後、駅まで送って欲しいと佐山に言ってきたらしい。
「てめぇはそれに黙って従ったのか……?」
「はい……」
雄相会の面々に怪しまれないよう、先に一旦事務所へデジカメを届けてからの旅立ちだったという。
百合香は、花嫁からのブーケトスで受け取ったと思しき花束を抱えていたらしいが、マンションを出るときには持っていなかった、と佐山がつぶやいた。
「代わりに――」
小さな骨壺を大事そうに抱えていたと聞いて、雄二の胸が大きくざわつく。
(しろ……)
彼の遺骨を手にしていたということは、百合香は戻る気がないということだ。
「……百合香は――」
「西へ行くって言ってました。――多分、下関です」
「下関? それは……あいつが言ったのか?」
百合香の性格からして、そんなことはあり得ないように思えた。
「いえ……。俺が新幹線の駅までの道行、『下関じゃ、〝フグ〟のこと、幸福の福にちなんで〝フク〟って呼ぶらしいです』って話して……それで……百合香さん、それに興味持ってたみたいだったんで……」
案の定の返しに、雄二は掴んでいたままの佐山の胸倉をやっと手放した。
その示唆が、佐山なりの百合香と雄二への配慮に思えたからだ。
佐山は三井の息が掛かった若い衆だが、百合香のことを三井ほど嫌っていない。それを知っていたから、雄二は今日、佐山に百合香の送迎を頼んだのだ。
「……カシラと離れてっ、……新しい幸せを探す旅に出たんだと……思い、ます」
ケホケホと軽くむせながら続けられた佐山の言葉に、雄二の目が細まる。
「俺……百合香さんに、カシラから離れた方がいいって言いました」
静かな……だが、間違ったことは言っていないと信じた目をした告白だった。
「……俺、百合香さんのこと、嫌いだったわけじゃないんです。だから……影の女としてじゃなく、ちゃんと幸せになって欲しくて」
「……」
「もちろん、カシラが百合香さんの方を……その、姐さんより愛してらしたのは分かってました。けど……姐さんとカシラにはお子さんもいらっしゃいますし……家庭壊すのは百合香さんも望んでないって俺、知ってたから……」
雄二は何も言わない。
「だから……いっそのこと、どっかへ逃がせたらってそう思ったんっすけど……」
佐山は唇を噛む。
「下関、提案したの、半分わざとです」
沈黙。
二人の間を乾いた風が吹き抜ける。
「……どういう意味だ」
低い声。
佐山は迷うように視線を伏せたあと、小さく言った。
「俺、三井のアニキからずっと聞かされてきました」
「……」
「百合香さんが、結婚してるカシラにずっと……横恋慕してるって……。けど……なんか違和感あって……それで……」
百合香を追跡できる蜘蛛の糸を残したんだろう。
雄二はそんな佐山の不器用さに小さく吐息を落とした。
「……佐山、何故その違和感を信じなかった? 横恋慕してきたのは雪絵の方だ」
「え?」
「雪絵は――俺が百合香以外愛せないことを知った上で、俺に条件付きの結婚を迫ってきたんだよ」
佐山が息を止める。
コメント
2件
佐山くん、罪悪感に包まれるかな。
うわあ……今回も重かったね。雄二が佐山の胸倉掴むとこから始まって、百合香さんの旅立ちの真相がじわじわ明かされる感じ、すごく引き込まれた。佐山の「わざと下関を提案した」って不器用な優しさに胸が詰まるし、最後の「横恋慕してきたのは雪絵の方だ」には鳥肌立った。雪絵の執着、これからもっと暴かれていくのかな…。次の展開が気になるけど、今日はこの余韻に浸らせてください🌙