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ルイスとの交際をクラッセル子爵に認めてもらえたものの、夕食から入浴して寝室に入るまで私とルイスが二人きりにならないか目を光らせていた。
メイドや使用人にもその命令が出ているらしく、私がルイスの部屋へ向かおうとすると「ロザリーさま」と声がかかる。
こうなるとルイスと会えるのは、明日、彼が屋敷を出てゆくときだろう。
「……近くにいるのに、会えないなんて」
私は自分の部屋でため息をついた。
荷ほどきをして、ルイスから貰った童話の本の表紙を撫でていた。
入浴する際に解いた包み紙は机の上に置いてあり、ルイスが帰った後に本の栞の材料として使うつもりだ。
解いたリボンはアクセサリーとして、大事にとってある。明日も髪と共に編み込むつもりだ。
コンコン。
ルイスに会えないことを憂いていると、ドアをノックする音が聞こえた。
もしかして、ルイスかしら。
私は期待しながらドアを開けた。
「ロザリー、少しお話しましょう?」
「お姉さま……」
「あら、がっかりした顔をして……、さてはルイスが尋ねてきたと思った?」
私の部屋を訪れたのはマリアンヌだった。
思っていた人物とは違うと顔に出てしまったようで、思っていたことをマリアンヌに見抜かれる。
私はコクリと頷く。
「どうぞ」
私はマリアンヌを部屋に招く。
部屋に入るなり、マリアンヌはベッドに寝転がった。
ポンポンと隣に来て欲しいと私に合図を送っている。
私は洋灯を机からベッドの隣にあるベッドサイドテーブルに移した。
そして、マリアンヌの隣に寝転がる。
「トキゴウ村でルイスに告白されたの?」
どうやらマリアンヌは私とルイスの仲がどう進展したのか聞きたかったらしい。
要するに恋の話、略して”恋バナ”だ。
縁のないことだと思っていたのに、私が話すことになるなんて。
私はすうっと息を吸って、ドキドキしている気持ちを整えた後、マリアンヌの問いに答えた。
「はい。五年前からずっと好きだったと、告白されました」
「五年前から……!? それって、ロザリーが孤児院にいた時からルイスはあなたのことを好きだったってこと?」
「そう、みたいです。私としては、突っかかってきたり、形見の本を暖炉に入れられたりと嫌な思い出しかなかったのですが」
二人きりの時に私に突っかかってきたり、私の形見の本を燃やしたりした理由をぽつぽつと話してくれた。
当時のルイスは私とどう接したらいいのか分からなかったらしい。
『あの時のことを振り返っても、嫌われて当然のことをしていた』と当人は反省していた。
「再会したときも口喧嘩ばかりしていたわよね」
「あの時は、お姉さまにご迷惑をおかけしました」
「いいのよ。物静かで滅多に怒らないロザリーがルイスを相対すると、皮肉を言ったり、怒ったりしていて新鮮だったから」
ルイスはライドエクス侯爵家の使用人、士官学校生の中で数々の経験をして、相手に好意的に思わせる対応を身に着けたらしい。
けれど、再会したばかりの時は、それをすぐに実践すると私が引いてしまうのではないかと思い、徐々に出してゆくことにしたそうだ。
トキゴウ村へ行く際に、紳士的だと私が感じたのは気のせいではなかったようだ。
「ルイスの告白を受け入れた決め手はなんだったのかしら」
「えっと……、私の欲しい言葉をかけてくれたからでしょうか」
「その言葉って、なあに?」
マリアンヌはぐいぐいと訊いてくる。
この先はマリアンヌにも話したことが無い、私の心の闇だ。
「私は……、”ひとりぼっち”になるのが怖いのです」
「……」
「今はお姉さまとクラッセル子爵が傍にいてくれます。でもお姉さまはいつかチャールズさまの元へ嫁がれますし、クラッセル子爵は……、私が大病をしない限り先立たれるでしょう」
「そうね」
「私はいつか”ひとりぼっち”になるのです。それが怖いのだとルイスに伝えました」
「そう」
「ルイスは”ずっと傍にいる”と、私の欲しい言葉をくれたのです。だから告白を受け入れました」
私がずっと胸に秘めていたことをマリアンヌに打ち明けた。
マリアンヌは私の話を黙って聞いてくれた。
「私もね、ロザリーをこの屋敷に置いて行くのは不安だったの」
「お姉さまも……?」
「私ね、この長期休暇が終わったら……、チャールズさまと結婚する」
「えっ!?」
「だから、屋敷にいるのもこのお休みが最後。ロザリーとこうやってベッドでお話するのも、もう数えるほどしかないのよ」
マリアンヌも私に打ち明けたいことがあったらしい。
それはチャールズとの結婚。
結婚はマリアンヌの卒業を待ってから、あと二年後のことだと思っていたのに。
この長期休暇が終わってすぐに結婚するなんて、急すぎる。
私の驚いている顔をみて、マリアンヌは微笑んでいた。
「急な話でしょう?」
「はい。てっきり、私とルイスのように、お姉さまが学校を卒業したらなのかと」
「チャールズさまが『俺が成人したら籍を入れよう』っておっしゃったの」
「結婚したら、学校はどうなるのですか?」
チャールズの誕生日が早いことは知っていた。
マリアンヌに変装して、トルメン大学校に潜入していたときにチャールズが教えてくれたからだ。
それは、マジル料理を食べながら話した記憶があるから、どこかの昼食のときだろう。
チャールズは次の誕生日で十八歳、成人になる。
成人になったらすぐにマリアンヌを妻に迎えたいといったところか。
私が不安に思っているのは、マリアンヌの学校生活だ。
「私と一緒に卒業……、できるんですか?」
チャールズが在学中は、共にいられるかもしれない。
でも、チャールズが卒業したら?
マジル王国に帰国することになったら。
妻になったマリアンヌはマジル王国へ行くことになる。
在学しているトルメン大学校は中退するのだろうか。
「ロザリーと一緒に卒業するのは難しいかも……、しれないわ。中退するかもね」
「そんな……」
「チャールズさまには私が卒業するまで、祖国に帰らないようお願いするわ。私、ロザリーよりもお話がうまくないから、説得できるか分からないけど」
「そうなったら私が代わりに説得します!!」
「それは心強いわ」
私の主張にマリアンヌはくすっと笑った。
私たちのおしゃべりは、夜遅くまで続いた。
そして、同じベッドで眠り、夜が明けた。