テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
かんな
2,452
寿命㌫(主) 🔮🖤ᩚ
8,872
なんだかふわふわする。
温もりが触れている。手を握ってくれているみたいだ。
(僕は、どうしたんだっけ。さっきまで、何をしていたっけ)
色々な出来事が、走馬灯のように流れて行った。
「はっ! 寝ている場合じゃない!」
「まだ寝ていて、いいぞ。外からアクションがないと、どのみち出られない」
かっと目を開いて起き上がろうとしたイソトマの頭を、ディルクが抑えた。
「はぇ? ディルク、出られないって、どうして?」
強制的にディルクに膝枕されながら、イソトマは問う。
「閉じ込められたのは、移送用の魔法のランプだ。閉じ込めるも出すも、術者次第。どんなに強い魔力をぶつけても、内側からは壊せないし、出られない」
そういえば、授業で習った。
魔法のランプは魔法がこの世に生まれた頃から存在する魔道具だ。
古いが故にシンプルで、強力な魔力を有する。
道具そのものの魔力が高すぎて、半端な術者が扱えば飲まれる危険もある。
「そんな危険な魔道具を使ってまで、僕らを誘拐したかったの?」
「そうなんだろうな。こんな魔道具、個人が簡単に手に入れられるものじゃない」
ディルクが、コンコンと壁面を叩いた。
「つまり、組織的犯行……!」
「しかも、並の組織じゃない。使っている道具も一流だが。アルシュタイン家の御子息を売ろうというんだ。肝が据わっている」
「え? 僕を、売る?」
「俺たちを攫った奴は、そう話していたぞ」
さっと血の気が下がった。
「僕、売られちゃうの?」
「そうしないために、俺がいる。イソトマを守るために、わざとランプの中に捕まったんだ。心配するな」
プルプル震えるイソトマの肩を、ディルクが優しく撫でた。
「わざと、だったんだ。僕のせいで、ごめんね」
「俺は護衛だ。イソトマを守るために、傍にいる」
ふわり、と前髪を梳かれる。
その仕草が、少しだけくすぐったかった。
「イソトマの部屋は、できる範囲で荒らしておいた。誰かが気付けば、探索隊がすぐに動き出す」
イソトマは、感動した。
「凄いね、ディルク。さすが有能!」
「俺たちは自力でこの場所を脱出するか、助けが来るまで持ちこたえないといけない」
「この場所って、ランプ?」
ディルクが神妙に首を振った。
「ランプの向こう側、人身売買を生業とする魔術集団。思い付くのはレイヴン商団くらいだな」
「レイヴンって……大型キャラバンの商隊? 普通の商人だよね?」
一年の内の数カ月、アスランズ王国で店を出して、旅に出る。イソトマも、何度も買い物している。
「表向きは旅商人だが。その実は人身売買を主とする集団だと言われている。足がつかないよう、キャラバンを装っているらしい」
イソトマは、息を飲んだ。
この状況でその話を聞くと、噂では済ませられない。
(アスランズ王国もそうだけど、近隣諸国の幾つかも、最近まで奴隷制度が残っていた)
今でこそ人身売買は法で禁止されている。
だが、ほんの数年前までは合法だった。違法になった今でも、そういう商売が残っているのは不思議じゃない。
「どうして、僕を攫ったんだろう」
これまで人攫いになど遭わずに、平和に生きてこられたのに。
「商品としての価値は申し分ない。奴らが狙う理由はわかる。問題は何故、今なのか。心当たりはないか?」
ディルクに問われて、イソトマは首をぶんぶん振った。
「そんなの、あるわけないよ。恨みなんか……」
買うような生き方はしてこなかった、前世なら。
イソトマの人生は、恨みを買いまくっている。
「恨みなんか買い過ぎて、どの恨みか、わからないよ」
「……そうか」
ディルクがツッコミ気質じゃなくて良かったと思った。
イソトマはランプの天井を見上げた。
大きな目が、ランプの中を覗き込んでいた。
「ひぃい! オバケ!」
ディルクの腕に縋り付く。
「落ち着け、イソトマ。俺たちのほうが魔法で小さくなっているんだ。向こうが通常サイズだ」
立ち上がり、剣を構えたディルクが、イソトマを後ろに庇った。
「そうなんだね……でも、怖いよ!」
「怖いなら、今すぐ出してあげるよ」
声と共に、体が引っ張られた。
「え! うわぁ!」
「イソトマ、掴まれ!」
伸びてきたディルクの手を必死につかむ。
魔法の圧力が強くて、目を開けていられない。
引っ張られた体が、突然外に放り出された。
「わぁ!」
ベッドのような場所に、体ごと落ちた。
「このランプは優秀でさぁ。魔力耐性の手枷足枷を、ちゃぁんと嵌めてから、人間を出すんだよねぇ」
説明の通り、イソトマとディルクの手足には枷がはめられている。
魔法を使おうとしても使えない。
それよりイソトマの視線は、話をした男に釘付けだった。
「リリー……? なんで、ここにいるの?」
胸の中で、ザワザワと音がする。
「何故? 今更そんなこと、聞くの?」
リリーの口端が、ニタリと上がる。
学園では絶対にしない顔だ。
「僕が二人を攫ったから。アルエに変装したのも、僕だよ」
リリーが得意げに語る。
その顔を見詰めて、イソトマは息を飲んだ。
犯人がリリーだと聞いても、あまり驚きがない。むしろ納得のほうが大きかった。
(そうだ、この感じだ。僕が知っているリリーは、こんな風に堂々としていた)
ゲームのリリーは人身売買のために人を攫ったりしない。
こんな風に、嘲るように笑ったりもしない。
けれど、似ている。纏う雰囲気や振舞が、イソトマの知っているリリーだ。
学園では怯えた目をしていた。あの態度より今のほうが、よっぽどリリーらしい。
リリーが椅子に腰かけて、足を組む。
顎を上げて二人を眺めると、リリーが両手を広げた。
「レイヴン商団に、ようこそ。高級商品様」
嘲るような笑みで目を歪ませる。
リリーが転がるイソトマを見下ろした。
コメント
1件
わあ、ついにリリーが動いた…! 学園のリリーとまったく違う"本来の姿"が出てきてゾワゾワしました。「高級商品様」って笑顔で言えるのが怖い。でもイソトマが「こっちの方がリリーらしい」って感じ取ってるのが、二人の関係性を物語ってて切ない。ディルクがわざと捕まったのもナイス判断だったし、有能な護衛だなあ。続きが気になります!