テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
かんな
2,452
寿命㌫(主) 🔮🖤ᩚ
8,872
恋愛シミュレーションBLゲーム『これから花咲く君のために』
主人公リリー=カトレアは庶民でありながら魔種を持って生まれた。魔力量が多く、強い魔術を使えた。
アスランズ王国は庶民でも魔力があれば魔術学園に通える。貴族と庶民の垣根が低い国だ。
リリーは孤児だったが、パン屋の夫婦に育てられ、十六歳で魔術学園に入る。そこで出会った男性と恋に落ちるのだが。
ルシアンの婚約者であるイソトマ=アルシュタインが事あるごとに邪魔をする。魔術で怪我をさせようとしたり、人身売買に駆けようとしたり、挙句殺そうとしたり。それらの罪で、イソトマはルシアンに婚約を破棄される。爵位を剥奪後、国外追放となる。
リリーはそれらの嫌がらせにも、真っ直ぐに向き合い、総て打破していく。その姿は攻略対象たちの心を捉え、二人の絆は深く切れないものになっていく。
あの頃、社会人になりたてで、メンタルをごっそり削られていた。そんな心に光を灯してくれたのが『これ花』というBLゲームだった。
リリーが、素直で強い心を思い出させてくれた。ルシアンが、愛があるからこそ出せる勇気を教えてくれた。
『ルシリリは信頼と絆だ』
何冊も同人誌を描いた。寝る間も惜しんで書いた。エナドリは友達だった。だから死んだんだろう。ある日、寝て目覚めたら、次の人生が始まっていた。
それでも悔いはない。『これ花』が、無味だった人生に彩りをくれた。ルシリリがもう一度、青春をくれた。あの瞬間が総てだった。
しかも、死んだら『これ花』の世界に転生できた。これ以上の幸せはない。
そう、思っているけれど。
「うっ……うぅ、うぅう」
イソトマは泣いていた。
(僕が知っているリリーは、こんなことしない。こういうことをするのはイソトマなのに)
そう思ったら悲しくて、涙が止まらない。
「いくら怖いからって……十七歳にもなって、そんなに泣く?」
リリーがドン引きしている。
隣にいるディルクが心配そうに小さく声をかけてくれた。
「イソトマ、大丈夫だ。俺がいる。落ち着け」
「うぅっ……ディルク、僕……今回ばかりは、立ち直れない」
主人公が悪役令息以上の悪者になっていました。なんて、どれだけ泣いても泣き足りない。
「もっと早くに今くらい折れていたら、売られずに済んだのにね」
リリーがイソトマを眺めてケラケラ笑う。
「どういう意味だ」
ディルクがリリーの言葉に食いついた。
「僕は忠告したよね? ルシアンとの婚約を解消しろって。お前が勿体付けて動かないから」
「なんだと。イソトマ、どうして俺に相談しなかった」
そういえば、リリーとの話は誰にも相談していない。
「ごめん、なさい……」
素直に謝ったら、ディルクが絶句した。
イソトマが泣きすぎて、ディルクが何も言えなくなっているようだ。
「しかも、ルシアンには婚約破棄の意思はない、なんてさ。こんな性格悪いガキの何処がいいのか、さっぱりなんだけど」
リリーが息を吐く。
「そうなったらもう、攫って売り飛ばすしかないよね。王妃の座は、僕のものだ。お前は邪魔なんだよ、イソトマ」
リリーの足がイソトマの肩を蹴り上げた。
「いたいっ」
「よせ!」
手足を縛られた状態で、ディルクがイソトマを庇い、前に出た。
リリーの魔法の杖が横に動いた。
「うぁっ!」
吹っ飛んだディルクの体が壁に強打して落ちた。
「ディルク……っ、あぁ!」
リリーがイソトマの髪を掴み上げた。
「人の心配している場合じゃないね。あの黒騎士はオマケだから、イソトマが僕の言うこと聞くなら、アイツだけ逃がしてやってもいいよ」
リリーが耳元で囁いた。
「本当、に……?」
「聞くな、イソトマ! 罠だ!」
リリーが飛ばした魔法の玉が、ディルクの腹にめり込む。
「ぐふっ……げほ、うっ!」
同じ球がディルクの顔を殴る。胸や腹や顔を強打して、嬲り続ける。
「ディルク、ディルク! 嫌だ、やめてよ!」
「やめてほしいなら、僕の言うことが聞けるよね」
リリーがイソトマの顎を掴んで、顔をディルクのほうに向けた。
声を出す暇もないほど、何度も何度も魔法の玉に殴られ続ける。そんなディルクの姿を見せ付けられる。
「うっ……うぅっ。何でも、するから。お願い。もう、やめて」
魔力を抑え込まれている人間が魔術で嬲られ続けたら、死にかねない。
リリーが杖を振った。魔法の玉が消えて、ディルクの体が床に沈んだ。
「イソ、ト……マ」
ディルクが動かない。意識が朦朧としているようだ。
「早く、治癒魔法をかけて!」
「治癒魔法を使ってほしいなら、イソトマが僕のお願いを叶えてくれないと」
「何でもするって言った! するから、早くしてよ!」
リリーの手がイソトマの頬を殴った。
「言葉に気を付けろよ、クソガキ。お前ら二人の命は、僕の手の中にあるんだ。忘れんな」
「ごめん、なさい」
手枷を引かれて、椅子に座らされた。その手に羽ペンを握らされた。
「まずは手紙を書いてもらおうかな。ルシアンに、婚約を解消して欲しいってね。その後はアルシュタイン家に……そうだな。自己啓発の旅に出るから、探さないでください、がいいかな」
震える手で、言われた通り文字を描いていく。
なるべく、ゆっくり書いた。
「情けないねぇ、イソトマ。頼みの騎士様は使えないし、誰も助けに来ない。イソトマはもう売られるしかないね。魔種持ちの末路は、悪戯目的の好事家か、子を孕む専門の胎扱いか。楽しみだねぇ」
ケラケラと笑うリリーには覚えがあった。
(リリーはこんなことしない。だから、この子はリリーじゃない)
この仕打ちはむしろ、イソトマだ。
(リリーとイソトマの役割が、完全に入れ替わっちゃってる。どうしよう)
どうすればいいかなんて、想像もつかない。
今は、自分ができることをするしかない。
(とにかく、今は慌てちゃダメだ。取り乱してもダメ。冷静に、冷静に……)
言われた通りに、手紙を書ききる。それだけに集中した。
「ちゃんと書くから、早く、治癒魔法を……」
「書き終わったらね」
ちらりと後ろを振り返る。
ディルクが腫れあがった顔で、何とか呼吸している。
目が潤みそうになるのを耐えて、イソトマは手紙に向き合った。
コメント
1件
第22話、読み終えました……!もう、心臓が痛いっす。 リリーが完全に悪役にしか見えなくて、イソトマの立場が逆転してるのがすごく辛い。特に「もっと早くに今くらい折れていたら」って言葉、元のイソトマが言ってたセリフなんだろうなって想像すると、胸が締め付けられました。ディルクを守るために必死で手紙を書くイソトマ、泣きそうになりながらも冷静さを保とうとしてるのが健気すぎる…。 この歪んだ世界、どうなっていくのか気になって仕方ないです。次話も楽しみにしてます🤍