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──貴方はまず、今のこの状況を呑み込む必要がある、そうでしょ?だって貴方の大好きだったテッサは、私が殺したんだから。
そのことも、貴方の意識を戻してから話した方が良さそうね。クスクス、永遠にこのままの方が幸せかもしれないわね?──
はっ、と意識が戻る。
目の前に広がっているのは、エリオット邸の祝賀会に参加していた大量の人間や労働ドローンの…死体?残骸?
…どうして……!?
「……はぁ!?ちょっとシン、これはどういう──」
「あらJ、覚えてないの?確かに貴方はテッサから聞いた筈よ、『シンが祝賀会で虐殺しようとしてる』って。」
記憶が一気にフラッシュバックする。そうだ、私はテッサと一緒にシンによる虐殺を食い止めようと作戦を練り、武器を揃え実際に会場に乱入…したところまでは順調だった。そこまでは覚えている。けど、その後は…?
…そういえば先程からテッサの姿が見当たらない。
そう思い辺りを見回した瞬間。
特徴的な大きなリボンが目に映る。
「…テッサ……?」
そこには、全身の力が抜け地面に倒れ込んでいるテッサの姿があった。急いで駆け寄り、テッサを起こす。
「ねぇ…!?テッサ!?テッサ……!?」
そう何度も何度も呼びかけても反応はなく、私の声が祝賀会場”だったもの”に反響するだけだった。
「う…そ…でしょ…?」
私は力が抜けた屍のようなテッサを優しく抱き、何も考えずに泣くことしか出来なかった。
そんな私を叩き起こすかのように、シンが口を開く。
「でも実際、貴方に文句ばっかり言っていたルイザ”も”殺したわよ?もうこれで人間は居なくなったの。前までみたいに奴隷のように扱われることはないの」
やがて、私は悲しみより怒りの感情の方が大きくなっていった。
「いくら人間が私達を酷く扱ってきたとはいえ、流石にこれはやりすぎじゃないの……!?そのせいで人間だけど私達とも対等に接してくれた、大切なテッサももう居ない…!!」
そう吐き捨て、近くに散っていた皿やステンドグラスの破片を乱暴にシンに投げつける。少しでもシンへの復讐になることを願って。だが、全てソルバーで跳ね返される。
そんな私の行動に苛立ったのか、シンは不機嫌そうな顔をし、私にこう告げた。
「さっきから貴方、テッサのことばっかりうるさいわ。クスクス、でもそんな寂しい気持ちとももう少しでお別れよ」
シンはそう言うと、私が抱いていたテッサの死体を触手のような何かで掴み彼女の方へ引き寄せた。私は可能な限り”それ”が奪われないよう抵抗したが、”それ”は何事も無かったかのように一瞬でシンの前に移動していた。
私は声が出なかった。”それ”が奪われた絶望感と同時に、 このまま骨まで食い尽くされてしまい私ひとりぼっちになるのだと思っていたから。
──だが、実際はそうではなかった。
グチャグチャと音を立てながらテッサは変形……シンと同化してゆき、血液が地面に滴り落ちる。
その出来事が、「シンがテッサの死体を着ている」と分かった頃には、出来事はとっくに終わっていた。
そう。シンはテッサの死体を着た……物理的に”皮を被った”のだ。
「ほら、テッサと同じドレスだもの…もうこれで寂しくないでしょう?」
そう自慢げにシンは言うので、私は今までにないくらい感情的になりながらシンを怒鳴りつけた。
「違うの!!テッサと同じ服で身体が動くならそれで良いってもんじゃないのよ!!しかも中身がテッサを殺したようなヤツなんて…本当に…嫌……」
いつの間にか、私の目には再び涙が溢れ、ぼろぼろと泣いていた。
:
──ついでに、マーダードローンにするときに記憶も上書きしてしまえば良いんだわ。貴方は生まれたときからマーダードローン。決して昔仲良くしていた人間の死体を私が着ているなんてことは無いわ。
というか、普通に考えればこんな宇宙服の姿なのにそんなことある訳ないじゃない!
…ごきげんよう、私はJCジェンセン認定技術者のテッサよ!
さ、行きましょう、J?──
「ええ、感謝します ボス──」