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カンヒュ好き
196
昨日Discordでお話していた際に、りな様に露日を描いていただいたので、そのお返しのつもりの小説です。
低クオですがお許しください。
本当はXで投稿するつもりでしたが、長くなったのでこちらで投稿します。
勝手な捧げ物ですが、ご査収いただけますと幸いです。
午後六時を過ぎた頃。
閑散としたオフィスにただ一つ点灯しているパソコンの明かり。
その持ち主、日本は黙々と書類を片付けている。
「……あと少し」
誰に言うでもなく呟き、次の書類へ手を伸ばす。
しかし、その手は白手袋に掴まれ、宙で止まった。
「…日本さん」
「あ、イギリスさん。お疲れ様です」
振り返った日本は、未だ掴んだままの彼の手を見て、小さく首を傾げる。
「どうされたんですか?」
「どうしたも、もう帰る時間でしょう」
「ああ、そうですね。でも、これだけ終わらせてから…」
そう言って、作業に戻ろうとする日本の手を、イギリスは強く引き、体ごと振り向かせた。
「今日は、私と帰りませんか」
「……嬉しいお誘いですが、まだ仕事が──」
「それは、貴方がやるべき仕事ですか」
図星で日本が固まっている隙に、イギリスはマウスを奪って保存を完了し、シャットダウンする。
「早く帰りましょう。下に車を待たせていますから」
そしてごく自然な動作で二人分の鞄を抱え、日本を席から引き剥がした。
エントランスを出た先、目の前に停まっていたドイツ車のドアがちょうど開く。
「…まさか」
そのまさか。乗り込んだ車の運転席には、「遅かったな」と振り向くドイツがいた。
「ドイツさんも…珍しい組み合わせですね」
「俺もイギリスに誘われたんだ」
日本とともに後部座席へ乗り込んだイギリスが、ドアを閉めながらドイツへ手を払う。
「たまにはいいでしょう。ほら、早く出しなさい」
「言われずとも分かっている」
慣性を感じさせず動き出した車は、夕陽に向かって駆けていった。
「……あの」
日本は、移りゆく窓の外を眺めながら尋ねた。
「どちらへ向かっているんですか?」
「秘密の場所です」
隣の席のイギリスが答える。
「秘密、ですか?」
「ああ」
運転席のドイツも、それ以上は何も言わない。
二人とも妙に機嫌が良い。
日本はますます首を傾げた。
やがて車が停まったのは、街から少し離れた静かな場所。
目の前には、周囲を木々に囲まれた立派な家が建っている。
「……ここは?」
「私の別荘ですよ」
日本の背をゆっくり押しエスコートしながら、イギリスが答える。
「明日の朝まで、ここで過ごしてもらいます」
「えっ?」
続いて、労うよう肩を軽く叩いたドイツが、静かに告げた。
「お前、最近ずっと働き詰めだっただろう」
「だから今日は休め」
玄関を開け、案内されたリビングへと踏み入れる。
その瞬間、日本の目が大きく見開かれた。
テーブルには、豪勢な料理が並んでいた。
温かいスープに焼きたてのパン。
色鮮やかな料理に、デザートまで用意されている。
「わぁ……」
天国のような光景に、思わず声が漏れる。
「二人で用意したんですか?」
「食事は私が用意しました」
ドヤ、と聞こえそうなほど、イギリスが自慢げに答えた。
「さあ、席について。冷めないうちに食べましょう」
食事が始まると、日本は驚くほど楽しそうだった。
「美味しいです……!」
「そうでしょう」
イギリスが満足げに笑う。
「日本さんが好みそうな、最高の食事を用意しましたからね」
黙々と料理を取り分けるドイツがイギリスに向かって溜息を吐く。
「一つくらい、自作の料理をラインナップに加えられるようになればいいんだけどな」
「貴方が止めなきゃ入れてましたよ」
イギリスさんの”あの料理”が食卓に並ぶ可能性があったのか。
ゾッとする日本へ、ドイツは皿を寄せた。
「この料理も食べてみろ。お前が気に入る味だ」
「ありがとうございます」
「……!これ、すごく僕好みです!」
「最近、まともに食事をしていなかっただろう。遠慮なく、沢山食え」
眼鏡の奥の瞳を細めながら、ドイツは次の一口を差し出す。
「……よく見ていますね」
「当然だ。お前は昔から目が離せないからな」
「ふふ……」
日本が小さく笑った瞬間、二人の間によぎる、冷熱。
「お二人とも、本当に優しいですね」
その一言で、二人とも何事もなかったように視線を戻した。
食事を終えると、二人は日本を浴室へ連れていった。
「……広いですね」
服を脱ぎながら、ガラスドア越しに浴室を見た日本が呆然とする。
「三人で入っても余裕だな」
「三人?」
振り返ると、すぐ目の前には、水着を着用したイギリスとドイツがいた。
「何を今更驚いているんですか」
「一人で入るより、話相手がいたほうが楽しいでしょう?」
同時に、どこからか、短めの水着を取り出したイギリス。
「これ、貴方の分です。着用はおまかせします」
そう言って、先に行ってしまった二人。
結局、日本は水着を履いて、湯船へ浸かった。
別荘地らしい、足が伸ばせるほど広い浴槽。
イギリスに背中を洗ってもらい、浸かった適温の湯。
小さく波打ち溢れる湯に、日々の疲れがゆっくりと溶けていく。
「気持ちいい……」
蕩けるよう沈んでいく日本を支えながら、ドイツは満足そうに目を細めた。
「今日は何も考えず、俺たちに任せてくれ」
「……はい」
日本の表情から、少しずつ理性が抜けていく。
その様子を、二人は黙って見つめていた。
風呂から上がった後は、二階のバルコニーへ出た。
三日月の浮かぶ星空の下、遠くでまばらな明かりが街を照らす。
日本は椅子に座り、カクテルグラスを傾けながら夜景を眺めていた。
「綺麗ですねぇ」
隣に座るイギリスが、その黒い瞳に映る星空を眺めて、微笑む。
「ええ、今夜は特に美しいですよ」
「ふふ、それはラッキーですね」
イギリスへ微笑み返した日本は、小さく軽い息を吐く。
「…こういう時間、久しぶりです」
その言葉に、ドイツの眉が僅かに動いた。
「……お前はずっと、仕事ばかりだからな」
「はい」
思わず、乾いた笑いが漏れる。
「家に帰っても寝るだけ、という日が多かったので」
ロイヤルブルーの瞳を細め、無言で上体を起こすイギリス。
そして、手にしていたグラスを静かに置いて、日本の頭を撫でる。
「なら、覚えておきなさい」
「疲れた時には、こういう休息が必要なんですよ」
「そして…私たちを頼ってください。いつでも待っていますから」
日本は少し考えてから、微笑んだ。
「……そう、ですね」
しばらく三人で夜景を眺める。
日々の喧騒を忘れるほど、穏やかな時間。
ほろ酔いに火照る頬を撫でる涼しい夜風と、優しく頼れる二人の気配。
自然と、瞼が重みを増していく。
「眠くなってきましたか?」
「……はい」
すっ、とドイツが立ち上がり、日本を掬いあげるよう抱えた。
「なら寝ろ」
軽々と抱えられ、綺麗な月色の瞳が近くにある驚き。
「でも、まだ――」
上擦った声は力強い低音に掻き消される。
「明日がある」
「……はい」
逞しい腕と胸筋、その体温に優しく包まれる。
その心地良さが、日本の意識を蕩けさせた。
イギリスがドアを開けてくれた部屋の奥。
そこには、キングサイズのベッドが用意されていた。
「……ふかふかですね」
ゆっくり降ろされた身体が、包み込まれるよう、柔らかく沈む。
「気に入りましたか?」
「はい……」
右のイギリスが布団を掛け、左のドイツが枕の位置を整える。
その甲斐甲斐しさに、ふはっ、と笑いが漏れた。
「なんだか……子供に戻ったみたいです」
照れくさそうな、擽ったそうな日本の微笑み。
同じ布団に潜った二人は、甘ったるい笑みで応える。
「たまにはいいでしょう、誰かに甘やかされるのも」
「……そうですね」
日本は目を閉じる。
二人の大きな温もりがすぐ傍にある。
それだけで、不思議と心が緩んでしまう。
「今日は……ありがとうございました」
「お礼は結構ですよ」
「お前が休めたなら、それでいい」
「はい……」
日本の声が徐々に小さく、覚束無くなる。
「……おふたりと一緒にいると、安心、します」
「また、ここに来たいな…って、おもっちゃう、くらい…」
その言葉に、二人の動きが一瞬止まった。
それに気づかないまま、眠りに落ちていく意識。
「……おやすみなさい」
「おやすみなさい、日本」
「ゆっくり眠れ」
二人の低い声音に見守られ、日本は眠りについた。
───しばらくして。
日本の寝息だけが聞こえる静かな部屋。
柔らかな笑みを浮かべていた二人の表情から、同時に笑みが消えた。
重圧のしかかる静寂で、イギリスが口火を切る。
「随分と楽しそうでしたね、ドイツ。真っ先に日本を抱え、寝室に連れ込む貴方の顔、見ものでしたよ」
半端に隠した言葉の本音に、深くシワを刻むドイツの眉間。
「…それはお前もだろう。日本の身体を随分丁寧に洗っていたな。それに、あのサイズピッタリな水着も…いつから用意していたんだ?」
「私は日本さんを労っていただけです」
「俺も同じだ」
睨み合う視線がバチッ、と弾ける。
「くれぐれも勘違いしないでください」
「今は同じ目的だから手を組んでいるだけです」
「…ああ」
吹き抜ける夜風の、背筋が震えるような冷たさ。
先程までの穏やかな雰囲気など、どこにもない。
仮初の信用と互いへの警戒、そして、同じ人間へ向ける愛。
利害の一致だけで成り立つ薄氷のような関係が、隠す気もなく滲み出ている。
「日本が完全に我々を信頼し、安息地と認識し、自分から他よりもここを選ぶようになるまで」
「そこまでは共同戦線、抜けがけはなしだ」
契約書を読み上げるような、ドイツの牽制。
カウンターのように、イギリスは続きを読み上げる。
「そして、その後は協力関係を解消する」
「後は恨みっこなし、でしょう?」
「そういうことだ」
無防備な標的を撫でる、青と黄の、二つの大きな手。
その瞳には、触れる手とは別種の熱が宿っていた。
「日本が俺たちのどちらを選ぶかは、計画が終わってから決める」
ドイツの言葉に、イギリスは口元を吊り上げる。
「その時には、遠慮なく奪わせてもらいますね」
「ハッ、望むところだ」
疲労の影がない、穏やかで、安心しきった日本の寝顔。
その上で、知られざる火花が静かに散った。
コメント
5件
まじで設定が神すぎて泣きます😭😭 あくまで今手を取り合ってるだけっていうのが理知的で合理的なイギリスさんとドイツさんらしくてまじで解釈一致です💕😍 あと個人的にロイヤルブルーだったり月色だったり瞳の表現が素敵すぎて文章がもはや美しい(?)です❣️
コメント失礼します🙇♀ 🇬🇧さん、🇩🇪さんによる社畜🇯🇵くん甘やかしの会最高でした!!! タイプの違う紳士的な2カ国が愛するたった1カ国のために一時的に協力して優しくするのがとっても微笑ましかったです……! そしてその裏で実は取り合いの火花散らしてるのが2カ国の利害の一致により結成された協力関係っていうのが🇯🇵くん愛されてるなぁと思いました!
「おお…これは見事な罠でしたね(笑)」。最初はただの癒し話かと思いきや、最後の寝室のシーンで二人の豹変ぶりにゾクッとしました。日本が「子供に戻ったみたい」と笑うあの無邪気さが、かえって二人の危険な本音を際立たせていて。表面上の優しさと、裏で火花を散らす競争心の対比が本当に上手いです。日本が完全に信頼するまで…という共同戦線、その後の展開が気になりますね。