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「浪岡常務で2000点っ」
「なんでですかっ。
常務の点数、どんどんつり上がってってますよっ」
花札が佳境に入り、倫太郎と壱花は揉めていた。
「いや、入社当時、
『君のそのスーツ、新入社員が着るにしては小粋すぎないかね』
としてやられたことを思い出したんだ。
あのときもあのときもあのときもっ、この俺がしてやられたくらいの人だから、2000点っ!」
「……社長、怒りの記憶が増えるたびに、点数上げてくのやめてください。
そして、それたぶん、常務が正しいです」
と壱花は言って、
「正しいともっ、だからムカつくんだっ」
と堂々と言い返されてしまう。
「その点、私の主張する点数は常識的ですよ。
キヨ花さんの舞を見ながら、桜の下で高尾さんと呑む。
『高尾さんと一杯』、700点です」
壱花は、花見で一杯、的なことを言いながら、桜と高尾とキヨ花と杯の札を指差した。
「それ、どちらかと言うと、キヨ花さんで一杯では」
とその札を見て、冨樫が呟く。
「その方が訳わからんだろうがっ」
と倫太郎に言われ、
「お前らの常識がわからん」
と斑目に呟かれる。
そのとき、冨樫がまだ暗い外を見ながら言ってきた。
「この世界、そろそろ夜明けじゃないかと思うんですけど。
何処で終わりなんですか、この花札」
「最後までリングに立っていられた奴の勝ちだろう」
と斑目が言うが。
いや、リングに立っていられなくなっているのは、おじいさまたちですよ、
と壱花は壁際で、寄り添い合うようにして寝ている斑目の祖父と倫太郎の祖父を見る。
戦っていない人たちの方が燃え尽きた感じになってますけど……。
「よしっ。
なんかわからんヌエみたいなのと、なんかわからん清姫みたいなのと、なんかわからん火車みたいなので。
10000点」
と斑目が言う。
いや、なんでですか、と思ったが、
「追いかけられたら逃げられなさそうチームだ。
火車に追いかけられ、蛇と化した清姫に締め上げられ、ヌエにトドメをさされるんだ」
と言う。
だが、倫太郎が、
「ヌエにトドメが刺せるかな」
と斑目の手にケチをつけ始めた。
「ヌエ、名前は禍々しいが、レッサーパンダ説があるぞ。
ヌエは狸の胴体に狐の尻尾を持つと書いている文献もある。
その容姿から考察したら、ピッタリなのはレッサーパンダだそうだ。
昔のレッサーパンダって今より大きかったらしいしな」
……レッサーパンダ、可愛いではないですか。
「確かにそれだと、トドメは刺せない感じですね」
可愛さでハートにトドメを刺されそうだが、と動物園でレッサーパンダにエサをやるコーナーに行ったときのことを思い出しながら壱花は思う。
「っていうか、その説、ほんとうなんですか?」
「さあ?
うちにヌエ、来たことないから」
と倫太郎が言ったときにはもう、壱花の頭の中では、レッサーパンダが小さな買い物カゴを持って、駄菓子屋に来ていた。
「ヌエ、来ないですかね~」
と思わず、期待して入り口の方を見てしまう。
だが、この札に描かれているヌエは虎っぽくて怖い。
これがお買い物カゴ持ってきたらやだな……。
でも、うちには番犬的にライオンさんがいるから、襲いかかってはこないかな、と店の入り口でまた大欠伸をしているライオンを見る。
あの大きな口が開くたびに、食われそうでちょっと怖いんだが……。
そう思いながら、改めて札を眺め、壱花は言った。
「それにしても、不思議な札、多すぎですよね」