テラーノベル
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【俺に話しかけないでください!!】
そう、ノートを突き出されて、俺は思考停止した。どうゆうこと……?話しかけるな、??
「乃蒼さん、それってどういう……、」
その理由を聞こうと思い切って話しかけると、プイ、とそっぽを向かれた。心なしか何処か不機嫌に見える。
……、なんか、幸先悪いぞ?
そんなこんなで、朝のホームルームが終わり、休み時間になった頃だった。
やっぱり、お約束のあれ、と言うべきだろうか。俺の机には人だかりが出来ていた。……、クロノアさんと話したいんですけど……。
「よろしくな!えっと……、緑?だっけ?」
「うん。緑だよ」
「緑君って、なんの教科が好き?」
「緑はさぁ、好きなヤツとか、いんの?」
「推し活してるのか!?」
わっちゃ わっちゃ と俺の机周辺は数人の生徒でお祭り騒ぎになる。
いや、クロノアさぁん助けてぇ……、
ちら、と隣を見てみると、隣が五月蝿いというのに、本を読んでいた。
けれど、生徒の1人が思い出したかのように、
「おい〜、乃蒼ぁ〜!」
ビクッ と肩を震わせて、こちらをチラリと見る。
「あんさ〜、俺、今日水筒持って来るの忘れちゃったからさ、自販機んとこ行って、買ってきてくんね?」
「………、」
仲が良いのだろうか?それでも、クロノアさんは黙ったままだ。でも、手が震えているような……?
「おーい、なんか言えよ〜wあれ?もしかして、沈黙だから、OKって、見なしていいってこと?」
「ッ、!」
ブンブンッ と必死に首を振り、また、ノートとペンを取り出すが…、
「なんか言えよッ!!」
バンッ とクロノアさんを押し倒した。押し倒したせいで、椅子と一緒に転げ落ちた。ノートとペンが散乱している。
「ちょっ!」
俺が我慢しきれなくなり、声をあげる。が、周りを見渡すと、何事も無かったように友達と話している。嘘、だろ……?こんな中、クロノアさんは……、
押し倒されたせいで、クロノアさんは、キッ と睨みつけた。多分、反射的に、なのだろう。
「チッ、あぁ?なんだよ。その目。何も言えないお前が悪いんだろ!」
バチンッ とビンタされて、クロノアさんは何も言えなくなる。
すると、フラフラとした足取りで、近くにあったノートとペンを持ち、
【買ってくる】
と書いた。
「ははっ、お前、たった五文字も言えないとか、マジウケるわ〜」
ゆっくり立ち上がって、教室を出る。
「……、」
俺は呆然と見ていた。何も、できなかった。
「なぁ、緑〜、あいつのこと……」
「ごめん!俺、ちょっとお手洗い行ってくるw」
「お!じゃあ、連れション……、」
「連れション界隈じゃないんだよねw俺wごめん!」
クロノアさんをあんな奴にした奴と一緒に連れションするか馬鹿。と心の中で舌打ちしながら、教室を出てクロノアさんの背中を追いかける。
「乃蒼さん!」
大声で名前を呼ぶ。だが、クロノアさんは立ち止まってくれない。
「乃蒼さん!!」
それどころか、クロノアさんは速歩きになっている。階段を急いで下って、俺も追いかける。
「乃蒼さんってばッ!!」
角を曲がって中庭に出る。
「はぁッ、はぁッ、はぁッ……、ッ、のあッ、さん」
ピッ と自販機の音がする。中庭に自販機があるんだな、と冷静に判断している自分がいた。
だが、クロノアさんは、睨みつけるようにこっちに振り向き、
「……、なに?」
小さな小さな聞いたことない低い声でたったニ音、そう言った。
「ぁ、乃蒼、さん……、その、」
ガコンッ という音が響き、自販機から麦茶が出てくる。
「あ、あいつらの言うこと、聞かないほうがいいと、思いますよ。だって……、乃蒼さんのこと、利用してるだけだと思うし…!」
「、」
けれど、さらにこちらを鋭く睨みつけた。怖い、と思い、少し怯む。
「わかるわけ、ない。」
さッ とクロノアさんは翻して、俺の真横を通り過ぎて行くと同時に、囁くような声で、
「普通に、しゃべれる、君とは」
「……、くろ、のあさん……?」
【普通に喋れる君とは】……?つまり、クロノアさんって、喋らないんじゃなくて、
「喋りたいけど、喋れないんですか、?」
「ッ、」
クロノアさんの足が留まる。そして、ゆっくり振り返り、
「どッ、…、して、ッ、?」
「どうして、って、それは、乃蒼さんのことが、大切だからです。」
クロノアさんの目が見開く。目には涙が溜まっていた。
「とあッ、しま、君……、」
「なんですか?」
「ぉれの、声、へん、?」
「ううん。俺はその、透き通った声、好きです」
「ッ…、」
静かに、クロノアさんは涙を流した。その間にチャイムが鳴って、1時間目が始まってしまったが、そんなことは構わない。そっと、優しく背中を擦った。
暫くすると、クロノアさんは小さな紙とペンを取り出して、書いた。
【俺、機能性発声障がいなんだ。】
「機能性発声障がい…、なんか、聞いたことあるかも 」
俺の記憶の中では、声帯による物理的な問題ではなく、ストレスや過去のトラウマなどが原因で声が出にくく(出せなく)なる症状だったような気がする。
【リハビリとか、色々頑張ってるけど、治らなくて、】
「うん。」
【声を出したいのに。】
『声を出したいのに』そのたった8文字でなんとなく、分かった。自分では、声を出したい、出そう、と頑張ってるのに、周りは声を出せない、出そうと思わない努力しない人、だと思われてる。その環境が、さらにクロノアさんの障がいの克服を妨げてるんだ。
「頑張ったね。乃蒼さん」
「ッ……、ぁり、あとッ…、グスッ」
「分かるなぁ……、」
「?」
「いや!乃蒼さんと比べたら、全然大した事ない悩みなんですけど、なんか、努力してるのに、実らない、って苦しいですよね、って」
「……。」
コクリと頷く。こっちは頑張って努力してんのに、軽々とできるアイツは……、って妬んでしまう。まあ、乃蒼さんからしてみれば、俺のこと、妬んでるだろうなぁ…。だって、乃蒼さんのできない、『喋る』っていうことを日常的にしてるんだから。
「そう、なの……?」
思わず、そうつぶやいてしまった。
いつもクロノアさんはニコニコしてるけど、本当はいつも普通に喋ってる俺を見て妬んでいたんじゃないのか?そんな中、俺には無くて、クロノアさんにある才能を妬んだ。
クロノアさんにしたら、どれだけ贅沢な悩みなんだろう。
「?どう、したのッ、?」
急に黙り込んだ俺を見て、心配そうに覗き込む。
「いやっ!?なんでもないです! 」
クロノアさんは少し考え込んだ後、ギュッ と袖を引っ張ってこう言った。
「無理、は、よく、ないょ?」
「ッ!!」
「俺、見て、自分の悩みなんて、大した事ない、って思ったでしょ?」
この人、高校生の時からエスパー並みに心の声が読めるんだな……、と呑気にそんなことを考えていたが、でも、彼の言葉は耳を傾けてしまう物だった。
「ぉれも、皆に、世界には俺より辛い人がいる、って、言われて、我慢、してた 」
頑張って、聲を出して伝えようとする。俺は一言一言にきちんと耳を傾ける。
「でも、辛さ、は、人、それぞれ。周りの人に言われたからと言って、辛さを我慢しちゃ、イケない。辛さの、ものさしは、この世に 存在しないから。自分が辛かったら、声をあげて、良いんだよ、?」
「ッ”、………」
「虎島君は、今、しあわせ、?」
「ぁ……、お、おれ、はッ……、」
「あ〜!いたーw何やってんの〜?」
後ろから声がする。そこには、クロノアさんに飲み物を買ってこさせようとしたクズがいた。
「1時間目終わったよ〜?サボり〜?よくないねぇ?」
「ぁ…、」
「え?虎島もいんの?なんで?こいつのこと、気持ち悪いと思ってるでしょ?」
「ッ…、」
こいつ……、マジでクズ。思わず声を荒げようとするが、クロノアさんが先に立ち上がり、
「…、ぉちゃ。」
「あ”あ”ッ?何つった?初めてなんか言ったと思ったら、何言ったか分かんねーよ」
思わず拳を握る。クロノアさんはきちんと先程買ったお茶を両手で握りしてめて、一生懸命伝えようとしている。
伝えようとしてるのに、相手はそんなことも知らずにヘラヘラ笑っている。
「ッ!ぉちゃ!買ってきたッ……!」
「ッ!!お前w初めて声聞いたけど……、」
笑いながら、煽るような顔でクラスメイトは、
「声、キモいねww」
「ッ………、」
クロノアさんはギュッ とズボンを掴み、顔を歪ませる。
信じられない。俺のクロノアさんを、侮辱するなよ。俺は怒りが沸き起こった
「お前、声がキモいから喋れなかったんだ?wそうなんだn」
「黙れ。もう喋んな。」
気がつくと、声と手が出ていた。クラスメイトの口を手で塞いで、俺でも信じられないほど怒りが沸いていた。しかも、リアム看守のような低い低音で。
「おいっ!何す……」
「何も知らないだろ。乃蒼さんは!頑張って努力してんだよ!」
「とら、じま、くんっ、」
「行きましょうっ!乃蒼さん!」
「えっ?」
俺は乃蒼さんの手を引っ張り、校庭へ飛び出していった。
「まっ……、学校ッ、出るの?」
「はい!ここ、荒れてるので、1人や2人居なくなったことで、探すことなんてないでしょ!」
クロノアさんは一瞬目を見開いた後、クスッ と初めて笑った。その笑顔がとっても綺麗で、美しくて、不意打ちで、少しドキッ としてしまった。
暫く走った後、近くのベンチに座った。そして、2人で色々な話をした。
「リハビリの……、ッ男の子が居るんだけど、その子ねッ…、すっごく…、面白くッ……て! 」
「へ〜!俺もね、いつも一緒にいる4人が居るんだけど、もう、一緒にいるだけでニヤニヤしちゃうんですよw」
クロノアさんは、時々つっかえながらも、一生懸命、だけど、楽しそうに話してくれた。
でも、時が経つのは速い。日が落ちてきた。
「乃蒼さん、」
「?」
「乃蒼さんの声、俺、好きです。」
「ッ!」
「なので、」
一拍間を開けて、笑顔でこう言ってあげた
「伝えることを、諦めないでください」
クロノアさんは目を見開き、ニカッと笑った。
「うんっ!」
そして、思い出したように、俺にも尋ねた。
「そういえッば……虎島君、今、ッしあわせ?」
先程質問されたことをもう一度質問される。そして、よく考える。が、ここは、明るく、
「うん!めっちゃ幸せ、!」
「……、本当に?」
「え、?」
思いがけない言葉が返ってきた。
「…。無理、しなくて、良いんだよ。」
そして、俺の手を引っ張って、何かを握らせる。
「お守り。幸せに、なれますようにッ、」
「……、じゃ、俺からもお守り。」
俺はポケットに入っていた京都に行くついでに買ったお土産を渡した。
「ッ!ヘアピン……?」
「はい。似合ってます」
「…、ぁり、がと……ッ」
すると、どこからか鐘の音が聞こえた。空を見上げると茜空が広がっていた。
「じゃあね、乃蒼さん。俺、もう行かなきゃなんで…、」
「ぇ、うん。……、ぁ、っと!じゃあ!」
「?」
恐る恐る、けれど、ハッキリと俺の目を見て言った。
「ま、またいつか、ね?」
「ッ……、!」
まるで、これから日常組として俺等が会う、と言ってるような……、
「うん。またね!クロノアさん!」
「き、消えた……?ッ」
俺……黒井乃蒼。ニックネームはクロノア。
いつもは筆記で話してるから、慣れない言葉で独り言を呟く。なんで?さっき、あの子が……、
「ぁの子、って誰…、?ッ」
ここに、誰かいた気がする。あれ?俺、なんでここにいるの?学校はどうしたんだっけ?ふと、手の中を見る。そこには、
「ヘアッピン……、」
綺麗に光っていた。まるで宝石のように
「あれ?クロノアさんじゃないですか!」
「?……!しッにがみ君!」
しにがみ君は、俺の機能性発声障がいのリハビリの相手だ。家にお金を預けないといけなくて、この仕事を選んだそう。しにがみ君もきっと俺より大変だ。
「こんなところで、どうしたんですか?」
「いや……、なんでだッろ?」
「ッ!てか、クロノアさん、なんか、いつもより、声出てて、普通に話してません?」
「ほんとだ……ッ」
確かに、いつもなら、聲が出ず、書いて伝えていた。だけど、
「ねね、しにがみ君、…この後、ッ空いてる?」
「?はい」
「声のリハビリしッない?」
「えぇッ!?急にどうしたんですか?」
「いや、なんか、」
空を見上げる。夕陽が落ちてきて、深い青色になってきて、星がいくつか出てきた。俺はそんな空に向かって宣言した。
「伝えることを、諦めないようにしよう、って」
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