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2025年、JO1のドームツアー最終公演。熱狂と興奮が渦巻くステージを終えた瑠姫は、全身の疲労を感じながらも、その達成感に満たされていた。
喝采の残響がまだ耳に残る中、彼は舞台裏の廊下を歩いていた。
ふと、足元のコンクリートの隙間に光る、アンティーク調のペンダントが目に留まる。まるで誰かに呼ばれているかのように、彼の心臓がわずかに高鳴った。
何気なく手を伸ばし、それを拾い上げた瞬間、周囲の景色が眩い光に包まれた。
耳鳴りがして、視界が真っ白になる。
次の瞬間、光が収まると、瑠姫は目の前の光景に息をのんだ。
見慣れたはずの無機質な舞台裏は消え失せ、代わりに目に飛び込んできたのは、レンガ造りの建物と青々とした木々が並ぶ、見覚えのない大学のキャンパスだった。
「ここは…どこだ?」
混乱しながらスマホを取り出し、日付を確認する。
画面に表示された「2018年11月」の文字に、瑠姫の心臓が凍りついた。
タイムスリップ。その非現実的な言葉が、頭の中で何度も反響する。
どうすればいいかも分からず立ち尽くしていると、聞き慣れた、少し懐かしい声が響いた。
「うわ、まじかよ…遅刻やん…」
声のする方を向くと、そこには未来の彼より少し垢抜けない、パーカーにリュックというごく普通の格好をした青年が立っていた。
しかし、その優しげな笑顔と、通るような声は、紛れもなく河野純喜だった。
瑠姫は反射的に声をかけた。
「純喜…?」
純喜は不思議そうに目を丸くして振り返る。
「え、あ、はい。俺、純喜って言いますけど…。もしかして、知り合いですか?」
その問いに、瑠姫の心は激しく揺れた。
未来で、誰よりも隣にいた彼が、自分を覚えていない。この時代では、二人はまだ出会っていないのだ。
「あ、いや…高校の後輩に、すごく似ている人がいて…」
瑠姫は咄嗟に嘘をつき、なんとかその場をしのいだ。
未来の純喜に会えない寂しさと、目の前の彼に触れたいという衝動が同時に押し寄せる。
彼は、この過去の世界で、もう一度純喜のそばにいたいと強く願った。
「そうなんですね! 似てるって言われること、結構多いんですよ」
屈託なく笑う純喜の笑顔に、瑠姫の胸が締め付けられる。
この笑顔を守りたい。
彼が未来で輝けるように、何かできることはないだろうか。そう考えたとき、瑠姫の心に一つの決意が芽生えた。
「もしかして、この大学の学生ですか?」
「あ、はい、そうです」
「俺も、これからここで勉強しようかなって思っとって…」
瑠姫は、過去の純喜との新しい関係を築くために、一歩踏み出した。
彼の人生を変えるかもしれない、嘘から始まる出会いだった。