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さらに壁はじわじわ沈んでいき、最初に登った日から数えて丸一年経った高三新学期の秋には、ついに俺の背丈とほぼ変わらなくなった。ジャンプすると向こうの国が見える。ところが、不思議なものだ。壁を乗り越える困難さだけは、ここ半年くらいあまり変わっていない。いや、かえって苦しくなっているのが現状だ。物理的な超えやすさは目で見て明らかなはずなのに、城壁の前に来るとどうしても、心と体が止まってしまう。ここ半年のことを思い返すと、あまりに切ない。今日も本当に越えられるだろうかと自分を疑うことが、何度あったか知れない。数時間壁の前をうろうろした挙句、結局家に帰ってしまったこともあった。そんなときは、悔しくて眠れなかった。「これまでもっともっと高い壁を乗り越えてきたんだぞ」と、何度も何度も自分に言い聞かせた。
そのうち、説得の相手が誰なのかを知るに至った。それは鏡に映ることのできる俺ではなく、心の中の俺だった。心の中の俺が、深く「できる」と信じることができたときは、実際に壁を乗り越えていけた。経験上気付いたことの一つだ。