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元の国の学校の門を出ると、小道が続いていた。沿道の草木は黄色く枯れているか、すでに葉はなかった。
下校の生徒の中に、耳まで塞ぐ「ゴーゴー・ケマル」マーク入りニット帽を被った小さな背中があった。赤茶の髪が少しはみ出している。横顔で高い鼻を確認した。
手袋をはめたまま肩をポンと叩くと、プナールは白々しくも「誰?」と言いのけた。去年同じクラスだった、と言うと、彼女は「そう」と、俺の黒髪に目をやった。不機嫌そうな顔するなよというと、彼女は「生まれつきだからしょうがない」とふくれた。
大通りに突き当たると、ふてくされた女子高生よりも不機嫌そうな大人達が息をしていた。型崩れしたコート、汗ばんだセーター、ヤニに黄ばんだ歯、疲れ切った目尻の皺、ヒールをカタカタ言わせて満員バスに飛び乗る人。バス停の先にある福祉事務所の前には、競馬新聞と煙草の吸殻が散らかっていて、ついでに人も並んでいる。道端に落ちたパンを拾う人。彼が食べなければ野良犬がくわえていっただろう。買い物籠をぶら下げた主婦達が、目を吊り上げて立ち話をしている。眉間にはゴシップの塵が詰まっているが、彼女達は塵だってクッションになると言うだろう。バンパーのへこんだ白いホンダから若い男女が降りて来た。口論を止めに入る者はいない。イスケンデル食堂では、無愛想なおばさんが今日も食器を片付けている。窓には下手な字で「バイト急募」の紙が貼り出されていた。
「大人って、あんなことが俺達のためになるって、本気で考えてんのかな?」
「何のこと?」
「この前の問題」
「言ってる意味がよくわかんないけど」
前回の定期テストに出た読解問題で、「作者の意見を次の中から選べ」というものがあった。
「ああ、あれね」
「作者の意見を俺達に聞いたって、しょうがないじゃん。それって、交番で『サバサンド、うまいですか』って尋ねてるようなもんだよ。聞く人、間違えてる。そう思わないか」
プナールは立ち止まり、鞄から煙草を出して火をつけ、そして無機質な青い目を俺に向けた。
「聞いてるよ。調子いいそうじゃん」
俺は小首を傾げた。
「シラ切るつもり? 廊下に結果、貼り出してあったの見たから」
今日帰ってきたテストも満点だった。
「一つだけ教えて。どうしたらクタイ君みたくなれんの?」
「これは点数とは関係ない話だ」
プナールはそこで黙った。