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それからも、翔馬とのやりとりは続いた。普段はなんでもない出来事の報告が多かったけど、たまに仕事の愚痴や夫への不満を送ると、慰めてくれたりキツめにお説教のようなことを言われることもあった。
それでも、私なんかの独り言のようなコメントに真摯に答えてくれる唯一の人だという有り難みがうれしくて、どんどん翔馬とのLINEにハマっていった。もちろん、私にはハマっていってるという自覚はなかったけど。
《じゃあ、その日、またあの駅のあの場所で》
〈はい、楽しみです♪〉
毎日、何通のやり取りをしているのかわからない。それでも私としては、こっそりひっそりやっているつもりだった。それなのに。
「ねぇ!駒井っち、何をそんなに楽しそうにしてるの?スマホで」
昼休み終わりに、仕事終わりの美和子が話しかけてきた。
「え!楽しそう…ですか?」
「うん、でもたまーに、なんだか焦ってるようにも見えたりするけど。なんていうか、スマホを見ながらいろんな表情してるよ」
そう言われて、思わず自分の顔を触る。
___今日はどんなやり取りしてたっけ?あ、そうだ次に会う約束をしてた
「顔に書いてあるよ!ものすごくうれしいことがあったって!」
「そんなことは…」
「う、そー。でも、最近なんだか綺麗になったよね?せっかく綺麗になったんだからもっと皆んなと話して笑っているほうがいいよ。無理して合わせる必要はないけどね」
「笑う?」
「うん、笑う角にはなんとやらってやつ。じゃ、お先に失礼するね!あとはお願い」
そう言って帰って行った。
午後からは由香理と一緒に大量発注のリストをこなした。仕事をしながらおしゃべりしていても、要所要所で確認を怠らない由香理は、私よりきちんと仕事ができる人だとわかった。若いから肌も綺麗で髪もツヤツヤしている。
___仕事ができて若くて綺麗…いいなぁ
「なに?駒井っち。私のことなんか見てる?」
「えっ?あっ、若いっていいなぁって憧れてね」
「そんなこと?私は…そうだな、美和子さんみたいな人に憧れるかな。毎日楽しそうで元気で、そばにいたくなるよね?パワーをくれるみたいな」
「そうだね、イキイキしてるね、美和子さん」
「美人とか綺麗とかましてや若いとか、それだけしかないとしたら女って生き物を辞めたくなるよ、私なら」
___それは今若いから言えることなんじゃない?
とは言わなかった。私が綺麗になりたいのは翔馬のためだとは言えないし。
「でもさ、最近の駒井っちは、綺麗になったよ。なんかさぁ…恋する乙女みたい」
「えっ!そんな、ないないない!」
言い当てられたようで、慌てて両手を振って否定する。
「冗談だよ。けど、オシャレするのは楽しいよね?私は自分が楽しければ、あまり人の目を気にしないから、こうなっちゃうけどね」
クルリと回って見せたそのファッションは、相変わらずのビタミンカラーと大ぶりな猫のピアスと派手目なネイルで、“元気”を体現してるみたいだった。
「あ、ねぇ!そのネイル見せて。どこでやってもらったの?」
次はネイル、それから脱毛もしたいと考えていた。次に翔馬に会うまでにもっともっと綺麗になりたいと、そればかり考えていた。