✦『風間ママは気づいている。——もう、ふたりは恋人だってこと』
夕方の風間家。
風間ママは、買い物から帰ってきたところだった。
玄関を開けると、
キッチンから小さな笑い声が聞こえた。
「ねぇ風間君、このエプロン似合う~? ほら、ほら!」
「ちょっ……!しんのすけ君!
それは僕のだってば!!」
(……あら。)
風間ママは、そっと靴を脱ぎながら微笑む。
キッチンの入り口から息子たちをのぞくと、
しんちゃんが風間君のエプロンを着て、
腰に手を当ててポーズを決めていた。
風間君は真っ赤な耳で
そのエプロンを必死に取り返そうとしている。
その距離——
ただの幼なじみじゃない。
(……これは、もう確定ね。)
風間ママは買い物袋を置いたあと、
あえてすぐには声をかけなかった。
ふたりの空気を壊すのがもったいなかったのだ。
しんちゃんが笑うと、
風間君もつられて微笑む。
しんちゃんが少し近寄ると、
風間君は照れながらも避けない。
“付き合っている”
そういう空気がもう漂いすぎている。
(あの子……ほんとうにトオルの心を軽くしてくれる。)
息子の恋人が誰なのか——
親は、だいたい一番先に確信する。
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✦ 風間ママ、ついに声をかける。
「ただいま。ふたりとも何してるの?」
キッチンの気配に気づいたトオルは
ギャッ!!と声を上げた。
「ま、ママ!?
いつから見てたの……!?」
「ふふ、ちょっとだけよ。」
しんちゃんはにっこり。
「風間ママ~、今日は風間君と一緒にお料理デートです♥」
(はい、確定。)
トオルが顔面を覆って真っ赤になる。
「な、なに言ってっ……!」
「え~?デートじゃなかったゾ?」
「も、もうっ……///」
風間ママは優しく笑って言った。
「トオル。
そんなに照れるってことは……
しんちゃんは“特別な人”なのよね?」
トオルは耳まで赤くして、
だけど、否定しなかった。
ただ静かに、
しんちゃんの袖をそっとつまんだ。
「……うん。」
(ああ。この子、こんな顔をするんだ。)
母として胸があたたかくなる。
「しんちゃん。」
「はい風間ママ。」
「トオルがあなたといる時の顔、
小さい頃よりずっと、自分らしいわ。
……ありがとうね。」
しんちゃんは照れもせず、
いつもの笑顔で答えた。
「風間君のこと、大事にするゾ~」
風間君は耐えられなくなって、
腕で顔を隠した。
「しぬ……恥ずかしすぎてしぬ……!」
風間ママは優しく息をついた。
(うちの子を選んでくれて、ありがとう。)
(そしてトオル。
あなたが“好きな人”とこうして笑っている姿を、
見られてよかった。)
その日、風間ママは
夕飯を少しだけ豪華にした。
理由は言わなかったけれど——
ふたりはすぐに気づいた。
(ママ、応援してくれてるんだ……)
そんなあたたかい夜だった。
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