「…き、ゆき?」
名前を呼ばれ、はっと顔をあげるとそこには京介が居た。
「え、あ…」
普通に会話をしようとしたが、瀬尾の事を思い出し、何も言えなかった。
「どした?」
京介は少し心配そうな顔で僕を見ていた。どうしよう。
「ゆき?そろそろ帰」
「ごめん」
僕は京介の言葉を遮った。、、京介と一緒に帰る訳には行かない。
「何で謝るんだ?」
、、意味分かんないんだろうな、。
「えっと、その」
言葉を濁らせ、必死に頭を巡らせる。すると、視界に蓮の姿が写った。
「今日蓮と帰る約束してて、、」
京介から目を逸らし、さりげなく蓮に視線を送る。
「は、」
「ゆきは俺と帰るからさ、京介は他の誰か誘ったら?」
蓮は何か察したのか話に乗ってくれた。
「…分かった」
京介は蓮を一瞥した後、そのまま教室を出て行った。僕はその後ろ姿に、心の中でごめんと呟いた。
「わっ」
急に後ろから蓮が抱きついて、
「京介かわいそー」
と、楽しそうにそう言った。
「仕方なかったっていうか、、」
「何それ」
蓮は笑った。
「…蓮帰んないの?」
「ゆきと一緒に帰るんだけど」
「え」
「え?酷くない?せっかく助けてあげたのになー」
助かったけど、蓮と帰るのはちょっと、。
「今俺と帰るの嫌とか思ったでしょ。でも残念、ゆきは俺と帰る約束してるから、ね?」
「……」
一緒に帰るしかないか、。
「ゆき、俺ん家来ない?」
僕は首を振った。蓮の家にはあまり行きたくはない。
「じゃー俺がゆきの家行こ」
僕は蓮にくっつかれながら歩いていた。引き剥がそうとしても無理だったから諦め、そのまま帰った。
「ただいま、」
「お邪魔しまーす」
蓮は慣れたようにすぐ家に上がった。
「あら、お帰り!蓮くんじゃない、久しぶりね」
お母さんが出迎える。
そしてお母さんと蓮は何やら会話を始めた。この2人いつの間に仲良くなったんだ、。廊下で話している2人を置いて僕はリビングに出た。冷蔵庫を開け、ドーナツを取り出しその場で食べた。
「食べるなら座って食べなさい、、」
いつの間にかお母さんが近くにいた。僕は残りのドーナツを一気に口に押し込んだ。
「もう」
お母さんが笑って水をくれた。
「何で京介の誘い断ったの?」
部屋に戻ると、突然蓮に質問された。蓮には言ってもいいのだろうか、。
「えっと…ある人に京介と距離を置いて欲しいって頼まれて、」
「へぇー、そいつやるじゃん」
蓮はそう言って笑った。
「でも何でそんな事頼んで来たんだろ、」
これだけは分からない。
「そいつ、京介の事が好きなんでしょ」
「え?」
そう言えば、男が好きって言ってたっけ。
そういう事だったんだ、。え、
「かわいそ。勝ち目ないのに」
蓮と目があった。
「勝ち目って?」
「そいつがどんなに頑張っても、京介は落ちないから」
「落ちる、?何で?」
「何でって。京介はゆきが好きだからだよ」
「は?」
「気づかない方がおかしい」
「まって、京介が僕を好きって、」
ドッと心臓が高鳴っていた。京介が、、嘘だ。
「そうだよ。だからさ、その頼んで来た奴はゆきが居る限りはどうにもならないね。、、嫉妬深い奴をさらに嫉妬させてどうする気なんだろ。俺からしたらラッキーだけど」
蓮の言葉があまり耳に入らなかった。京介の顔が浮かんだ。京介はあの時どんな顔してたっけ。
「!?」
突然、蓮に両手で顔を掴まれた。
「せっかく2人きりなんだからさ、京介の事考えるのやめてくんない?俺から話題ふってといてなんだけど」
、、近い。
まだ心臓はバクバクと鳴っていた。
「ご、ごめ」
僕は咄嗟に謝ってしまった。
「じゃ、ヤろ?」
「何でそうなるんだよ、、」
僕は蓮の視線から逃れるために、横の壁の方に視線を泳がせた。
「分かりやすいなぁ」
蓮はそう言って僕の服に手を掛けた。
「ま、まって!」
慌ててその手を掴んで止める。
「ん?」
ここ、僕の部屋だし、。下にはお母さんも居る。
「だめだって、」
「バレないよ。だから手離して」
やばい。するのはだめだ、。どうすれば、、視界にテレビが映った。
「げ、ゲーム!」
「え?」
「もし僕にゲームで1回でも勝ったら、蓮の好きなようにする」
「なんでも?」
蓮はピタリと手を止めた。
「なんでも」
「ふーん。言ったね」
提案に乗ってくれたようだった。僕はホッと息をついた。
「で、何があんの?」
僕は蓮の質問にテレビゲームのコントローラーを手渡し答えた。
ゲームだけは自信がある。
僕は込み上げて来る笑みを押し殺した。