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# 第3話 近所の噂
らんらんが来なくなってから、
季節が一つ進んだ。
気づけば、俺は高校二年生になっていた。
クラス替えもあって、周りの顔ぶれは少し変わった。
でも、後ろの席を振り返ってしまう癖だけは、
変わらないままだった。
そこに、らんらんが座っていないことを、
もう分かっているのに。
「らん、転校したの?」
「いや、休学らしいよ」
そんな会話が、風の音みたいに耳に入っては消える。
誰も、はっきりしたことは知らない。
放課後、家へ向かう近所の道。
あの電柱の下を通るたび、胸の奥がきゅっと締めつけられる。
ある日、
いつもの八百屋の前を通りかかったときだった。
「……〇〇さんとこの息子さん、大変らしいねぇ」
「まだ若いのにね。長く通院してるって話よ」
立ち止まるつもりなんてなかったのに、
足が勝手に止まった。
心臓の音が、急に大きくなる。
「学校も、ずっと休んでるみたい」
「入院してるとか……」
それ以上は聞けなかった。
買い物袋の音と一緒に、言葉が遠ざかっていく。
――病気?
頭の中で、その言葉だけが残る。
名前は出ていなかった。
でも、胸の奥が嫌な予感でざわついた。
近所、長く通院、学校を休んでいる。
全部が、らんらんに重なって見えた。
「……まさか、ね」
自分に言い聞かせるように、呟く。
確信なんて、どこにもない。ただの噂だ。
だけど、思い出す。
最後に見た、らんらんの顔。
少し疲れた笑顔。
「また明日」と言った声が、
どこか弱かった気がしたこと。
今まで、何も聞かなかった。
怖くて、踏み込めなかった。
もし本当に病気だったら。
もし、ひどく苦しんでいたら。
俺は、何も知らずに日常を過ごしていた。
「……らんらん」
夕暮れの中、名前を呼ぶ。
返事は、もちろんない。
確信じゃない。ただの予感。
それでも、その日の帰り道は、いつもよりずっと長く感じた。
らんらんが、どこか遠くに行ってしまった気がして。
手を伸ばせば届きそうだった距離が、急に分からなくなっていた。
➡♡200
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