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『鬼ごっこ。』でいただいた素敵コメントからの妄想。
元貴と涼ちゃんによる宣誓式(元貴曰く事実上の結婚式でもあるらしい)を終え、元貴が暴れたというレストランでめちゃくちゃ美味しいイタリアンのフルコースをいただいた。中でもトマトパスタとプリンは絶品で、元貴と涼ちゃんは大喜びだった。
オーナーシェフが挨拶に来てくれて、冷麺は取り扱いがなくてと申し訳なさそうに言うから思わず笑ってしまった。俺たちのことをよく知ってくれているんだと嬉しくなる。
麺だから一緒だろと暴論をかます元貴に違うわと突っ込む。二つ目のプリンに手を伸ばしながらまた太っちゃうと眉を下げる涼ちゃんに、もう少し太ってくれ方が俺としては気持ちいい……え、今日初夜じゃん、ちょっとあんま飲み過ぎないでよ!? と元貴が叫んだ。なに言ってんだこいつ、と唖然とする俺に代わって、なに言ってんのよ馬鹿なの、と頬を赤くした涼ちゃんが頭をはたいた。
そんなこんなで俺たち三人はもちろん、社長もチーフをはじめとしたマネージャーたちも、スタッフたちもみんな笑顔で、ここ数週間の殺伐とした雰囲気が払拭されて塗り替えられていく。正しく結婚披露宴のような空気感で、みんながみんな、俺たちに向けておしあわせにと言わんばかりだった。いや、俺は結婚してないからね? 誓ってはもらったけど。
おいしい食事においしいお酒、大好きな仲間と信頼できるスタッフたちに囲まれて、あぁ、よかったな、と泣きそうになった。無事に元通りになってよかった。元貴と涼ちゃんが笑顔でよかった。これから先ずっと、永遠を誓ってくれてよかった。
美味しいフルコースのお礼になるか分からないし、元々予定に組み込まれていたのか、俺たちのスペシャルステージなんかもやった。俺が持ってきたギターとレストランにあったグランドピアノ、それと司会進行に使うマイクでの即席ステージは大いに盛り上がった。
ごちそうさまでした、と退店するとき、悪戯をする子どものように笑ったオーナーシェフが、元貴に透明な袋でラッピングされたフォークを手渡した。
「大切な日に当店をご利用いただき、ありがとうございました。こちら、ささやかなものですが……記念にどうぞ」
先端が少し潰れていて、全体的に歪んだフォークだった。
「……ははは! ……ありがとうございます、飾っておきます」
笑いながら受け取った元貴と苦笑するチーフマネージャー。
なにそれ、と首を傾げる涼ちゃんと俺に、元貴が少しだけ考えた末に「戦利品かな」と笑った。
宣誓式の数日後、社長がくれた都内の一等地にあるマンションにやってきた。話し合いの末、元貴と涼ちゃんの二人はここに移り住み、俺の部屋を用意してもらうものの基本的には今まで通り、俺は自分の部屋に住むことになった。
家賃も掛からないし若井もここに住めばいいのにと涼ちゃんは食い下がったが、元貴は察したようで、寝室も防音よ? と笑った。寝室だけとは限らないだろ知らんけど、と眉根を寄せると、俺の言いたいことに心当たりでもあったのか、まぁいつでも帰ってこればいいからねお前の家でもあるんだし、と締め括った。
ところ構わずいちゃつく二人を見ても今更気まずいとは思わない。あの一件以来、今まで以上に元貴は涼ちゃんにベッタリになり、周囲に事務所の関係者しかいなければ「ここは日本ですよ」と言いたくなる頻度で涼ちゃんの頬にキスをするようになった。俺しかいなければ口にキスもする。
だからまぁ、その程度の触れ合いならなんとも思わないが、情事となれば話は別だ。流石に気まずい。ドアを開けたら二人が愛し合っていました、というのはちょっときつい。不快感とかそういうのじゃなくて、どんな顔をすればいいのかが分からない。
それに、公表はしていないが、本当にあの宣誓式が結婚式も兼ねていたらしく、プライベートでは二人は揃いの指輪を左手の薬指につけるようになった。そのうち婚姻届書くから証人欄の記入よろしくと言われている。もう一人の証人は二宮さんに頼むと言っていた。
新婚の家庭に入り込むほど無粋じゃないんですよ、俺は。
それでも納得いかないと言いたげな顔を涼ちゃんがしていると、元貴がスッと目を細めて、俺と二人が嫌ってこと? 若井の方がいいってこと? と畳み掛けた。ヒヤッと俺は背筋に冷たいものが走ったけれど、涼ちゃんは、そんなこと言ってないでしょと全然気にした様子はなかった。なんだかんだ涼ちゃんも強くなったのか、ただ鈍感なだけなのか分からないが、バランスは取れていると思う。
ちょくちょく帰ってくるからさ、とどうにか納得してもらい、元貴と涼ちゃんの引っ越しが決まった。社長はどこまで見越していたのか各々の部屋の更新のタイミングも抜群で、違約金の発生もなかった。元貴もそうだけど、どれだけ先が見えてるのかな、うちの社長。
それがつい先日。一緒に住んでいるからか、元貴は毎日ご機嫌で、Mrs.としても良いことずくめのある日。俺一人の仕事を終えて、今日は自分の家じゃなくてみんなの家に帰るか、と鼻歌混じりに玄関を開けた。
「あ、おかえり、若井!」
「た……ただいま」
玄関を開けた瞬間に目に入った光景に思わず固まる。
このフロアには俺たちの家しかないから他人がいることは有り得ないんだけど、我に返って慌ててドアを閉める。
「涼ちゃんなんで服着てないの!?」
「へ? あ、シャワー浴びてた。パンツははいてるよ?」
なんでシャワー浴びてるの、とは訊かない。訊かなくてもあらわになってある胸元や首筋につけられた赤い痕が全てを教えてくれるから。
真っ最中ではないだけマシかもしれないが、情事の名残なのかシャワーを浴びたからなのか涼ちゃんの頬は赤く色づいていて、髪から滴る水滴が白い肌を滑っていく様は非常に色っぽくて、なんだか見てはいけないものを見たような気分だ。
不健康に痩せてしまったけれど、元貴と元に戻ってからはよく食べるようになり、二人で筋トレを始めたと言っていたから、腰回りには適度に肉が戻ってしなやかな曲線を描いていた。細いわけではなくむっちりとした脚も惜しげもなくさらされ、照明の光を受けて扇情的に煌めいている。下手なグラビアアイドルよりよっぽど色気がある。
「若井? 顔赤いけど風邪引いた?」
思わずまじまじと見つめてしまった俺に涼ちゃんがグッと近づき、いつもは冷たいけど今はあたたかい手のひらをおでこに当てた。
ふんわりと香る涼ちゃんのシャンプーのにおい。心配そうにひそめられた眉が、まるで快楽に耐えているときの表情で思わず喉が鳴った。
「んん……? 僕の方があったかぁ!?」
「なにしてんの」
変に途絶えた涼ちゃんの声と、急に引き剥がされた涼ちゃんの手。
地を這うような低い声を出した元貴が、バスタオルで涼ちゃんを包み込むように抱き締めて俺を睨んでいた。
落ち着け俺。涼ちゃんだぞ!?
落ち着け元貴。俺は悪くない。玄関開けたらたまたまそこに半裸の涼ちゃんがいただけです。わざとじゃありません。
パチパチと瞬きをする涼ちゃんは、怒っている元貴を見つめて首を傾げる。そんな涼ちゃんに溜息を吐いて、俺を見る目は冷たいままに元貴が言った。
「……おかえり」
「た、ただいま……」
重苦しい沈黙が下りる。気まずい、というより息苦しい。逃げたい。
「あー……俺帰ったほうがいい?」
「なんで? ここに帰ってきたんでしょ?」
ちょっと涼ちゃん黙ってて? 後ろの魔王がすごい顔してるから。
「帰んなくていいよ。ご飯あるし、ここもお前の家だって言ったでしょ」
不機嫌さを隠す気はないようだけど、俺のことを追い出すつもりもないらしい。ここは俺の家でもあると言葉にしてくれるのは嬉しい。嬉しいんだけど……うん、むしろ帰らせて?
「とにかくあがんなよ」
逃がさないと言わんばかりににっこりと笑った元貴に促され、すごすごと靴を脱いで二人の横を通り過ぎる。
「若井」
「はい」
「明日の朝飯、よろしく」
「……はい」
つまり涼ちゃんは明日の朝起きられないと。
二人のスケジュールを頭に思い浮かべ、明日も忙しいのに可哀想にと、心の中で手を合わせた。
終。
シリアスばっか書きすぎてちょっと飽き……しんどくなったのでギャグをひとつ。
コメント
8件
ごめんなさいフォークで笑っちゃいました笑 ほのぼのしてるなと思ったら藤澤さん...🤣
私もこのお話で、ほっとさせて貰いました!!!笑 でも♥️くんの嫉妬も垣間見えて、良かったです🫣笑 💙を無自覚で焚きつける💛ちゃんも🤭
もしかしてこれは私の妄想…で合ってますか!?🫣 まさかあれを書いていただけるなんて、読めるなんて🥹ありがとうございます!めちゃくちゃ嬉しい✨ しかも続き物な感じですか?🤤 作者様のシリアスなお話も胸がギューってなって大好きですが、甘々いちゃいちゃのお話も大好きです🫶🏻︎💕︎︎