テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
優香と圭一が夜を共に過ごした次の日。土曜日の午前11時。優香はようやく、麗奈と二人で暮らすマンションに戻ってきた。
いつものようにドアを開けると、待ち構えていたとばかりに麗奈が立っていた。
その目には激しい怒気と狂気が含まれていた。
「昨日はどこにいたの、優香?」
「…………言ったはず。」
「……はぁ?」
「…………圭一とデート。」
麗奈の顔は湯が沸き上がるように引きつり、ヒクヒクと動いている。
眉間には見る見るうちにシワが寄り、
口は犬が今にも噛みつこうとするように開かれていた。
「なにが圭一よっ!くだらない嘘言わないで!」
「…………圭一とデート。何も間違ってない。」
「昨日、同僚が見たっていうのよ!あんたが港公園で男の人とキスしてたって!見られてるのもお構いなしにね!」
「…………。」
「しかも、その人どんな人だったか聞いたら、晶さんみたいな人だって!」
「…………。」
「昨日、晶さんは私との約束すっぽかした……。どういうことっ!?」
「…………私は花崎圭一という男と会ってた。そして一緒に寝た。」
「…………はぁ?」
「…………男と女の関係になった。」
「…………ふざけんな……ふざけんなぁッ!」
麗奈は優香の言うことを半分理解していなかったが、九頭竜晶と名乗る男が、自分を放っておいて、
優香のほうを優先したことだけは理解していた。
麗奈は兎にも角にも優香に掴みかかった。
「待ってくれ!」
いつの間にかドアが開かれ、麗奈は九頭竜晶という名前で、優香は九頭竜晶と名乗っていた花崎圭一という名前で、それぞれが認知している男が立っていた。
優香から手を離し、一旦静かに、しかしすぐに怒りを沸き上がらせる麗奈。
「晶さん……どういうことよ!」
再び優香に掴みかかった。
その腕を掴んで止めに入る圭一。
「説明するから落ち着いてくれ……麗奈。」
「う…………。」
今まで「麗奈さん」と言っていた男が、今は「麗奈」と呼び捨て。
話し方もこころなしか前より少し威圧的な感じがした。
今まで感じたことのない、晶こと圭一を見て、麗奈は押し黙った。
リビングのソファーに座る三人。
L字型のソファーに、圭一、優香、麗奈の並びで座る。
「…………まず麗奈、昨日はすっぽかして悪かった。」
「…………。」
黙ったまま怒りで震える麗奈。
「…………とりあえず聞いてくれ。俺は九頭竜晶という名前じゃない。」
「…え?」
「俺の本当の名前は花崎圭一。……『九頭竜』は母方の姓で、『晶』は母さんが俺に名付けようと思ってた名前。」
九頭竜晶と名乗っていた男が、麗奈にも本名を打ち明けた。
それを聞いて、昨日優香が言っていたこと、先ほど言っていたこと、全てが繋がった。
「じゃあ、やっぱり、昨日優香と会ってたんじゃないのっ!」
再び怒りを沸き上がらせる麗奈。
「……麗奈、圭一の話を最後まで聞いて。後で好きなだけ怒ればいい。」
「うるさいわね、優香!あんたはいつもいつも……。」
「黙れッッッ!」
圭一の一喝に、麗奈も思わず黙り込む。
「…………話を続けるぞ。」
圭一は麗奈にも、過去のことを全て話した。
「……じゃあ……あのホームレス達は……。」
「……俺が雇った。双子姉妹を何とか神社に連れ込むように……そこで俺と乱闘の末、逃げるふりをしろとな。」
「……サイテー……最低ッ!」
「じゃあ…………私は……私は……。」
麗奈は混乱していた。
言うなれば、自分が惚れていた男は実在すると思いきや、実在する人間が演じている架空の人物であったということ。
まさに現実とドラマの中の世界が混ざったような。
#『彼』の行く末
鐘寺 実昼
375
#オリキャラ
霰❄️
61
79
#短編
QuartoMew
105
「………てか、優香!あんた、そんな人と寝たの!?」
「…………だから?」
「だからじゃないわよ!あんた騙されてるんだよ!?わかってんのッ?」
「…………全部わかってる。でも愛し合った。」
「何言ってんのッ!?」
「………ていうか、あんた……じゃあ、いつから晶さんが、その……圭一って名前だって知ってたの?」
「………最初から疑ってた。ホームレスに襲われた時から。………確信したのは三日前。」
「いやぁ……あの時は優香の誘導に見事に引っかかったよ。」
「圭一、詰めが甘すぎ。」
「あははっ……。」
「なごむなッッッ!」
「…………なんで言わなかったの、優香?」
「…………あなたに言うと面倒になるから。」
「何が面倒なのよッ!」
「…………圭一は私を愛してる。私は圭一を愛してる。それを確かめるには二人っきりのほうが良かったから。」
「…………ふ、ふざけんじゃないわよ!何が愛してるよっ!」
またもや優香に掴みかかる麗奈を圭一が制止する。
「…………麗奈、怒るなら怒れ。憎むなら憎め。とりあえず、俺はこれから、優香と二人でこの街から離れる。」
「は…………?」
「もうやるべきことはやった。というより、復讐よりも、もっと優先することが出来た。」
「…………。」
圭一を嬉しそうに見る優香。
「…………だから、もう会うのはこれっきりだ。すまなかったな。」
「…………そんな。」
「…………圭一。」
「どうした、優香?」
「一応ケジメはつける。」
「パパ……春山剛蔵と会う。別れを言う。」
「春山剛蔵か……。すんなり『はい、そうですか。』で済ましてくれるとは思えないが?」
「私が説得する。」
優香は父である春山剛蔵に電話をし始める。
優香は麗奈と圭一から離れて、部屋の仲で通話し始めた。
「………冷静に………いつか……。」
「……それは……次第……。」
優香は父親に、何やら話していた。
しばらくすると、優香は部屋から戻ってきた。
「……圭一、さっそくだけど昼から会うことになった。」
「ええっ?急だな……。」
唐突に、市内にあるシティホテルの喫茶店で会うことになった。
午後三時。シティホテル内の喫茶店。
優香と圭一が4人掛けのテーブルに隣合って座る。
遅れて春山剛蔵が麗奈と共にやってきた。
「…………。」
「…………ッ!?」
圭一と春山剛蔵の目が合うと、剛蔵は圭一が何者かをすぐに悟った。
「…………優香が『会わせたい人がいる。』と言うから来てみたら……。まさか本当にアイツにそっくりな奴を連れてくるとはな……。」
「…………自己紹介の必要はないだろうけど、一応……。」
「フンッ……。」
「花崎圭一……と申します。」
「……花崎郁夫の倅か。どういうことだ、優香?」
「…………私の彼氏。」
「…………そんなこと許すと思うか?」
「…………許す許さない関係ない。」
「…………ッ!」
「…………私達、愛し合ってる。これから二人で暮らす。」
「ふざけるなッ!優香、お前は騙されてるんだ!」
「……全部知ってる。パパとビジネスで争っていたことも、春日山家と花崎家のことも……。」
「正気か?はい、そうですかで済ますと思うか?」
「…………知らない。」
「俺と優香はこれから二人で暮らしいく。干渉しないでくれ。一応の挨拶をしにきただけだ。」
「黙れ、花崎の倅がっ!」
「…………パパ、私が圭一と一緒になることを邪魔するなら、私も覚悟がある。」
「……優香!お前は自分が何を言ってるかわかってるのか!?」
「…………わかってる。」
「そんな男に何が出来る?なんの力がある?ただ無駄に苦労するだけだぞっ!」
「…………それも承知してる。」
「…………。」
「…………。」
優香と剛蔵、二人が無言で睨み合う。
怒り冷めやらぬ剛蔵だったが、優香の決意は悟ったようだ。
「…………優香、ここまでバカだとは思わなかった。……もういい!」
「…………。」
「…………好きにしろ、愚か者!」
「…………望むところ。」
「優香………お前は俺の跡を継げる逸材だと思ったが、所詮は女だったな……。会社は豊蔵に継がせる。」
「…………パパ。」
不安気に二人を見つめる麗奈。
「花崎の倅よ……一つだけ言っておく……優香をぞんざいに扱った時は……覚悟しろ!」
「…………ああ。」
「…………あ、待ってよパパ!」
圭一に一言告げてから、立ち去る剛蔵。
不敵に、あるいは嬉しそうに口角を上げた圭一。
麗奈は二人をチラりと見たあと、剛蔵を追いかけていく。
「…………なんだ、もっとごちゃごちゃ長引くかと思ったら、ずいぶんアッサリだな。」
「…………どうせ政略結婚の材料。清々した。」
「…………さて、これからは一般人の侘びしい生活だぜ、お嬢様?」
「…………くだらないこと言わない。」
「…………ははっ……そうだな。」
二人はしばしの間、テーブルの下で手を繋ぎ、遠くを見つめていた。
春山剛蔵という第一関門は、予想外にアッサリとしたものだった。
しかし、これから本当に圭一と優香の二人を掻き乱す存在は、既に二人のすぐ近くにいることは、知る由もなかった。
つづく
コメント
1件
ああ、第10話、読み終わりました……!ついに圭一が本当の名前を打ち明けて、優香との関係を全部さらけ出す場面、すごく心に残りました。特に麗奈の「なんで言わなかったの」に対する優香の「面倒になるから」という返し、あの距離感の描き方が絶妙でしたね。二人の間にしか分からない強さと優しさが滲んでいて、じんときました。それに、父親との別れもあっさりしていたけど、あの「覚悟しろ」の一言に父なりの愛を感じました。最後の“掻き乱す存在”の伏線……気になりますね。次も楽しみです🌷