テラーノベル
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六月にはいり少しずつ暑さが増す頃、大学の掲示板やSNSには、夏の学園祭の告知が並び始めた。本祭は秋に大々的に行われるが、七月末のこれは、夏休み前のいわば前哨戦のような、有志の模擬店中心の小さな夏祭りだった。
その日も勇斗の部屋に集まっていた五人の間で、話題は自然とそこに向かった。
「――なあ、みんな、夏休みどっか遊びに行かへん?大学生らしいことしようや!」
言い出したのは舜太だった。
「行きたい! どうせなら、めっちゃ豪遊したい」
即座に食いついたのは勇斗だ。
なにか始めるとき、大体この二人が言い出したことがきっかけになる。
「豪遊て、お前ら金あるん?」
太智が現実的な問いを投げかける。とたんに、視線をそらすもの、指折り数えるもの、遠くを見つめるもの、祈るように手を組むものなど、四者四様の反応を取ったあと、五人の間に気まずい沈黙が落ちた。
「――ないな」
「ない、かな」
「まあ、ない」
口々に白状する四人を前に、太智はやれやれと肩をすくめた。
「せやったら、話は早いやんね。ここで稼ぐしかない。ぱーっと。夏祭りで、出店やろうや!」
「出店って、何をやるん?」
勇斗の問いに、太智はちっちっちーと人差し指を左右に振る。若干うざい。
「いいか、よく聞けよ。商売の基本を教えたる。まず前提として、儲けを最大化するには原価を抑えるのが鉄則や。焼きそばとか唐揚げとか、あの手のもんは大学生は手出したがるけど、論外」
「食材費も設備費もかかるしね」
柔太朗が頷きながら相槌を打つ。
「そうそう。だから、原価がほとんどかからへんもんがええ。それでできれば数売れるもの。」
「――原価がかからないもの、って何があるんだ」
仁人が半信半疑に尋ねると、勇斗がぽんと手を打った。
「あ、占いとかどう? 紙とペンぐらいしかいらんくない?」
「占い、か……」
「正直、あんまり詳しくないけど……なんか、雰囲気だけは出せそう」
柔太朗が控えめに賛同すると、舜太も勢いよく乗ってきた。
「ええやん!学祭らしいし。 俺、タロットとか手相とか、ちょっとやってみたい!」
「――お前ら、経験ゼロで客とれる思ってる?」
仁人の冷静な指摘に、一瞬場が静まり返る。
太智は案外乗り気なようだった。
「占いええかもな……一回あたりの単価も高いし。
吉田さん、あんな……経験なんかなくてもええねん。占いは、雰囲気産業やから。それっぽい格好して、それっぽいこと言うたら、案外なんとかなるんよ」
「――そういうもん、だっけ?」
「そういうもんや。それに、原価ほぼゼロで、当たるも八卦当たらぬも八卦って言い訳もできるし、こんなおいしい商売、他にないで」
話しながらこれはいけるという思いが増してきたのか、太智のことばにも熱が入る。商魂たくましい理屈に、仁人は呆れつつも、これ以上反論する気力を失ったように肩を落とした。
「――決まりやな。夏祭りは、占い屋で行こう」
舜太が締めくくるように言うと、勇斗が真っ先に拳を突き上げた。
「よっしゃ、豪遊旅行に向けて、稼ぐぞー!」
「テンション上がってきたな!」
「えー……本当に占いなんてできるのかな……」
一人だけ不安げな柔太朗、納得しきれていない仁人をよそに、残りの三人はすでに、夏休みの旅行先について盛り上がり始めていた。
窓の外では、夏の気配を纏ったキラキラとした太陽の光が眩しいくらいだった。まだ何も決まっていない占い屋の中身とは裏腹に、五人の間には、ひと夏の楽しい予感だけが、確かに満ちていた。
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水虹ひにゃ@リムらないでほしい