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うわあ……今回のエピソード、すごく切なくて綺麗だった……🥀 リリーがセシルやアンと過ごす穏やかな時間と、遠く離れた森で戦う青年のシーンが交差する構成が美しすぎる。特に、リリーの夢に出てくる「あなた」と、青年が口笛で奏でるメロディーが同じものなんじゃないかって思うと、もう胸がぎゅってなるよね……。 名前も顔も思い出せないのに心が痛むリリーの感傷と、焚き火の前で彼女の名前を懐かしむ青年の孤独が、同じ星の下でシンクロしてるような描写が本当に好き。このバラバラな時間がいつか重なる瞬間を想像すると、それだけで泣きそうになる……。 Mさんの書く「待つ側」と「探す側」の対比、いつも心臓を直撃されるよ。続き、絶対に読むね🌙
ミーシャが突風のように部屋を飛び出していってしまい、「どうしようか」と手持ち無沙汰に佇んでいると――扉を叩く静かなノックの音が響いた。「はい」
私が応じると、扉の向こうから落ち着いた声が返ってくる。
「セシルです。入ってもよろしいですか、リリー?」
「どうぞ、お入りください」
ゆっくりと扉が開き、姿を現したのは透き通るような美しい金髪を持つ青年だった。
「お久しぶりですね、セシル様」
「ええ、お久しぶりです」
セシル・サムジール。このサムジール王国の第二王子であり、品格と知性を兼ね備えた人物だ。
「さっき廊下でミーシャとすれ違ったのですが……ここにいたのですね?」
「はい。久しぶりにお話ししていたのですわ。夕食までまだ少し時間がありましたから」
「なるほど。それなら……今からは私とお相手願えませんか?」
セシルはそう言って、悪戯っぽく微笑んだ。
「ええ、喜んで」
彼とは、互いの親同士が親密だったこともあり、幼少期からよく邸宅を行き来して一緒に遊んでいた間柄だ。
成績優秀で容容姿端麗、完璧な王族でありながら、誰に対しても分け隔てなく優しく接する彼。魔法が使えず劣等感を抱えるリリーに対しても、昔と変わらず一人の友人として対等に接してくれる、数少ない心許せる存在だった。
「本当に早いものですね。リリーと初めて会ったあのときから、もう十年は経っているんですよ。未だに信じられません」
「そうですね。でも……初めてお会いしたときの王子様は、いまの立派な姿とは違って、かなりの泣き虫でしたけれど?」
「っ……それを言うなら、リリーだって――」
昔の恥ずかしい思い出を引っ張り出され、セシルは少し耳を赤くして言葉を詰まらせた。そんな彼の反応が可笑しくて、私はくすくすと笑い声を漏らす。
こんな風に、彼と何の隔たりもなく笑い合って話せる時間は、あとどれくらい残されているのだろうか。
第二王子という高貴な身分でありながら、未だに婚約者が決まっていない彼を、陰で事好みに取り沙汰する貴族たちも少なからず存在する。きっと、彼に与えられたこの学園での三年間の時間は、王子としての重責から解放される「最後の自由」なのだろう。卒業すれば否応なく政略結婚を受け入れ、王族としての務めを果たさねばならない。
「……そろそろ、夕食の時間ですね」
壁の時計を見上げ、セシルは名残惜しそうに寂しげな笑みを浮かべた。
「リリーと話していると、本当に楽しいです。時間が経つのがあっという間に感じられますね」
「ふふっ、そう思っていただけると嬉しいですわ。私にとっても、とても心安らぐ時間でした」
────
セシルと別れ、リリーは1人食堂へと訪れていた。
学園での食事は基本的に、広大な大食堂に生徒一堂が集まって取る形式になっている。新学期が始まる前ということもあり、広い食堂の人影はまばらだった。
学年や身分を問わず、広い食堂に並べられた料理の中から自分の好きなものを自由に皿に取り、席につく。これは、身分を超えて様々な人と自然に交流できるようにという、学園の理念に基づく方針らしい。
(まるでバイキングね。自分で料理を取るなんて普通貴族はやらないから……本当に久しぶりね)
自分の食べる分を皿に盛り終えたその時、聞き覚えのある華やかな声が背後から響いた。
「あら? リリー様ではありませんか!」
「まあ、久しぶりね、アン。あなたも来ていたのね」
振り返ると、くりくりの瞳を輝かせた少女が立っていた。
彼女はアンハール・ミューエント伯爵令嬢。彼女もまた幼い頃からの親友だ。噂話や楽しい出来事が大好きで、いつも持ち前の明るさで周囲を明るく照らしてくれる、とても話し上手な子である。
「よろしければ、ご一緒に食事を取りません? たくさんお話ししたいことがございますの!」
「もちろんよ。先に席を取っていてちょうだい、すぐに行くわ」
静かなテーブル席に腰を下ろし、2人は並べた料理に手を付けた。
「こうして自分で好きな料理を取って食べるなんて初めての体験ですから、とても新鮮ですわ。何だかワクワクしてしまいますね」
「そうね。私たち貴族にとっては少し珍しい体験だけれど……これもお互いの垣根を無くすという、学園の方針なのね」
食事を進めながら、アンは休みの間に社交界で起きた様々な出来事や、学園についての噂話を尽きることなく話してくれた。彼女の軽快なトークに笑わされ、学園生活への不安が少しだけ和らいでいくのを感じた。
食事を終えたあと、私たちは「また明日」と約束を交わし、それぞれの部屋へと戻っていった。
夜の静寂が広がる部屋で、リリーはひとりベッドに横たわる。
「明日から、いよいよ本格的な学園生活が始まるのね……」
思い浮かぶのは、自分がまともに魔法を使えないという現実。不安とプレッシャーで胸が押し潰されそうになる。
こんな私でも、いつかこの場所で「楽しい」と心から言える日が来るのだろうか。
そっと目を閉じると、記憶の奥底からいつもの夢の光景が浮かび上がってくる。
まぶしいほどの光、地鳴りのような歓声、そして心地よい音楽の波。
その中心で、私の隣に寄り添う「あなた」。
隣にいるあなたは――一体、誰なの?
名前も、顔も思い出せないのに。
どうしてこんなにも……胸が痛くて、心が苦しいの?
溢れ出る切なさに胸を締めつけられながら、私はゆっくりと意識を闇の中へと沈めていった。
────
時を同じくして――学園から遠く離れた、鬱蒼とした深い森の中。一人の青年が、静かに燃える焚き火を見つめていた。
ひゅぅと、乾いた夜風が吹き抜ける。
そこには、焦げた火薬の匂いと、生臭い血の匂いが濃厚に混ざり合っていた。
青年は漆黒の剣を地面に深く突き立て、その足元に転がる巨大な魔物の死体を見下ろすと、鋭く、深く息を吐き出した。
「……ハッ、相変わらず面倒な奴だったな」
男は乱れた髪をかき揚げ、返り血に染まった頬を乱暴に手ぐしでぬぐう。
そして、何気なく口笛で小さな旋律を奏で始めた。
そのメロディは、誰に教わったわけでもなく、ごく自然と唇からこぼれ落ちたものだった。
(……昔、よく“あいつ”に聴かせてたっけな)
懐かしい記憶を確かめるように、青年は静かに歌声を乗せて旋律をなぞる。
戦場での荒々しい雰囲気とは対照的に、少しだけテンポを落とした優しく甘い旋律。
まるで、隣にいる誰かの耳元で囁きかけるように。
「……どこにいんだよ、お前は……」
焚き火が、パチ、パチと小さく音を立てて爆ぜる。
赤く揺らめく炎の向こう側に、もう何年も目にしていないはずの“あいつ”の笑顔が、一瞬だけ鮮明によぎった。
彼女の名前を、最後に口にしたのは一体いつだっただろうか。
またひと陣の風が吹き抜け、木々の葉を揺らす。
そのざわめきさえも、彼にとっては愛おしいあの日の歓声や音色に聞こえていた。
「……また、絶対に一緒に――」
青年が夜空を見上げると、暗闇の彼方で星がひとつ、静かに美しくまたたいた。
まるで遠く離れた場所で、同じ空を見上げている誰かが、彼の声に応えたかのように。
#魔法
しろのね
157
U
45
ちょん
43