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「アウティングでプライバシーの侵害だと言い張るなら、裁判所に私を訴える? どうぞ。あなたが隠していたことが全部家族にもバレて、いい子の振りがもうできなくなるけどそれでよければ。私は好きになった人を全力で守りたいと思っただけ。夏梅君を守れるなら、あなたとの裁判なんてちっとも怖くない」
「裁判したいなんて言ってない……」
僕に対してはいつも強気な彼女が彩寧さんの前ではタジタジだ。彩寧さんはここぞとばかりに畳みかける。
「あなたは本当に夏梅君を愛してるの? 自分の思い通りになる男の子をキープしておきたいだけじゃないの? もしそうなら夏梅君はもう解放してあげて。陰キャやチー牛相手にマウント取りたいだけなら、何人か心当たりがあるから紹介してあげようか」
陽キャか陰キャかで言えば、間違いなく僕は陰キャでチー牛。一人でチーズ牛丼を食べに行ったことはないけど、僕が牛丼屋で一人でチーズ牛丼を食べていても何の違和感もないはずだ。まあ、わざわざ陰キャアピールするのも変だから黙っているしかない。
僕を愛してると彼女が言ったことはない。愛してるのかと詰め寄られて、彼女がなんと答えるか? 何よりそれに興味があった。
「マウントを取るとか、そんなことに興味はない。ボクはただ――」
いつも強気で怖いものなしだった彼女が、泣き出しそうに見えるくらい必死な表情。彼女のそんな表情を見られただけで、今日という激動の一日がなんだか救われたような気がした。
「かつてボクはただのヤリモク男を運命の恋人だと勘違いして、ひたすら性欲解消のおもちゃみたいな扱いをされていた。今は後悔しかない。当時のことを思い出すといまだに大声で叫びたくなる。今ボクはただ、ボクをボクとして見てくれる夏梅に恋人としてそばにいてほしいだけだ。いや今だけじゃない。夏梅さえよければボクは夏梅と結婚して、いつまでも夏梅のそばにいたい。つまり死がふたりを分かつまで――」