テラーノベル
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「……やれやれ、観客(ギャラリー)もそろそろ『奇跡』だの『運』だの言うのをやめたらどうなんだ」凍りついたジャン=リュックを背にリングを降りる俺の背中に、怒号と困惑、そして少々の恐怖が混ざり合った観客のどよめきが降ってきた。
またしても100倍超えのオッズが瓦解したのだ。闇賭博の胴元どもは今頃泡を吹いて倒れているか、夜逃げの準備を始めているに違いない。
地下通路へ足を踏み入れると、ひんやりとした冷気と硝煙の不快な臭いが鼻をついた。
壁に背をもたれかけ、俺はポケットから通信端末を取り出す。
「ハンス、俺だ」
『……おいおいクロード、正気かよ! ジャン=リュックの血界魔法を凝固剤と液体窒素でカチコチにして沈めたって噂は本当か!? 胴元たちが本気で泣き叫んでるぞ!』
「噂通りだ。それより、注文していた光学迷彩の追加ユニットと、対人・対魔族用の指向性地雷(クレイモア)の最終ロットを至急回してくれ。払戻金の残高から引いて構わん」
『へいへい、毎度あり! ……しかしお前、次はいよいよ準決勝だぞ。相手は……』
「ああ。分かってる」
通信を切り、俺は暗闇の中で静かに目を閉じた。
準決勝。そして、その先で待つ決勝戦。
ルシアンの存在が、まるで肌を灼くような熱量となって、遠く離れた選手控え室からでも伝わってくるようだった。
「……あいつはまだ、気づいていない」
暗闇の中で呟く。
ルシアン自身、自分が「単なる熱操作の天才」だと信じ込んでいる。だが、セリスから聞いた魔界の情勢、そしてこれまでのあいつの周囲で起きた不自然な事件の記録を脳内で繋ぎ合わせるたび、ひとつの気味の悪い仮説が浮かび上がってくるのだ。
なぜあいつの側近や部下たちは、あいつに忠誠を誓った後、謎の衰弱や不幸な事故で死んでいくのか?
なぜあいつの炎は、時折あり得ないはずの『別属性』の変質を見せるのか?
あいつは無自覚のうちに、自分に命を捧げた者たちの魔力を吸い上げ、全属性を体内に蓄積し続けている**「無意識の化け物」**になりつつある。
「自分を完璧な天才だと信じて疑わない無自覚の怪物、か……」
クッと短い笑いが漏れた。
どれほど絶大な力を溜め込んでいようが関係ない。
あいつが大雑把に力を振るい、己の全能感に酔いしれている間にも、俺は冷徹に、淡々と、あいつの息根を止めるための「殺傷手順」を組み上げ続けるだけだ。
「……クロード!」
静かな通路の奥から、今度は足音を忍ばせるようにしてセリスが姿を現した。
ジャン戦の勝利を見届けた直後だからか、その瞳には驚きを隠しきれない光が宿っている。
「本当に……ジャン=リュックの広域切断陣を、あんな小細工一つで無効化するなんて……。アンタの頭の中は一体どうなっているの?」
「小細工じゃない。事前の情報収集と、適切な物理化学反応の応用だ」
「相変わらず可愛げのない言い草ね……」
セリスは呆れたように息を吐きながらも、すっと表情を引き締めた。
「……でも、浮かれていられるのもここまでよ。ルシアンの準決勝が始まるわ。あいつ……アンタがジャンを倒した瞬間、信じられないような不快な笑みを浮かべていたの。本気でアンタを『害虫』として叩き潰す気よ」
「そうか」
俺は愛用の消音拳銃を引き抜き、スライドを引いて薬室の弾丸を確かめた。重厚な金属音が静かな通路に響く。
「熱くなればなるほど、隙は大きくなる。……あいつに教えてやるさ。魔法の火力に胡座をかいた『天才』が、人間の作った冷徹な鉄くずと知略の前に、どうやって崩れ落ちるかをな」
耳の奥で、夢の中のアホ師匠のダミ声が再生される。
『最後に立っていた奴が勝ちなんだよ!』
「……フッ。分かってるよ、師匠」
俺はセリスの横を通り過ぎ、不敵な笑みを浮かべながら、さらなる地獄の準備へと暗闇の深くへ足を進めた。
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蒼月
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グリルタ
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コメント
1件
あー、めっちゃ熱かった!!🔥 クロードがジャン=リュックを倒した直後の展開、もう痺れたわ。敵の情報をガッチリ分析して、物理化学で対策するところが「脳筋じゃない強さ」って感じで最高。あと、ルシアンが無意識の怪物って仮説、めっちゃ怖いし気になる……! 準決勝、どう動くのかマジで楽しみ。クロードの準備がどこまで通じるか、張り詰めた空気がたまらんかった。続き早く読みたい!