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「ごめん。藤塚さんの家、分からないから案内してくれるかな?」
「分かりました。」
そう言って私がシートベルトをしめると、車は動き出した。
まだ、暖房が効いてないため、肌寒い車内は、もう新車の匂いはしなかった。
響く音は、時々私が道案内する声とラジオから流れる音楽だけ。
あとはずっと無言の状態。しかし、そんな沈黙を打ち破って店長は話し出した。
「あの…さ。今日、家まで送ろうとしているけど、夜の予定とか大丈夫…だった?その…」
歯切れの悪い言い方。何のことを言っているのかすぐに分かった。
「援交…ですか?」
ストレートに聞いてきた私に、店長はう、と言葉を詰まらせる。自分から聞いたくせに。
やっぱりまだ気にしていたんだ。やっていなくて正解だったな。
私は、窓の外に視線を移して、答えた。
「心配しなくても、もうやっていませんよ。店長に言われて心から反省したんです。」
よくもまあ、こんな嘘がすらすら出るもんだ。
だけどきっとこれで、疑われることはなくなる。そう、確信した。
ところが…
「いや…やってもいいんだよ。」
店長の口から出た言葉は、信じられないもので。私は、思わず店長の横顔を見つめてしまった。
街の灯りに映し出されたその顔は、複雑そうな笑顔だった。
店長は、私の視線に横目で気づいたのか、苦笑いしながら答えた。
「あ、いや…誤解があるかな?本当は、そんなことしてほしくないんだ。けど…君が寂しくないならそれでもいい。それでしか、埋められない寂しさがあるんでしょ?」