幾星霜、友を待つ。
この己に友が出来るなど、考えてもいなかった。
確かにやつは人懐こい、不運が重なりこの世界に来た、どこにでもいる哀しい蝶。
…だが何故だろうか。やはり己はこういうタイプに弱いのだと思う。あの戦士然り、蝶然り。
友という言葉は嫌いだとまで言わせた己を変えた。…不思議な話だ
…なんというか、放っておけない。
放っておいたら…何時一緒に飛べなくなるか…
そんな思考を巡らせて、空を見る。
己と出会い、偶然が重なりこの世界から浮世に返り咲き、己を倒したあの騎士は、何をしているだろうか。
やつと出会ったのも、あの日…
己を怖がってか震えるような声でやつは居た。臆病なやつだとは思ってたが、まさか、時空の裂け目が閉じかけているのにも関わらず突っ込んでくるのは想定外だった。
まあ、臆病ほど慎重で強いと言うし…そこはいいのだが。
帰ってきた私を見て、一直線に飛んでくるのはどうなんだ?
しかも第一声が「メタナイト…じゃ、ない!!!良かった!メタナイトは帰れたんだ!」は悪意を感じたぞ。さすがに。
そして、今もこうして己を待たせている…
……こういう所は、あの戦士にも似ているな。
パピ…薄い水色の蝶。黄泉の世界は全てが白黒で、味気ない。だからこそ、私の紅が目立つのだが…彼は何か違う。体色的な意味ではなく、何か、こう…根本的な…
「ごめん!!遅れちゃった!!」
「遅い。いつまで待たせる気だ」
「ごめんってば〜!!ちょっとおばけコウモリに襲われちゃって…」
「逃げてきたのか?!」
「大丈夫だって!!ほら!怪我してない!」
バカなのか、こいつは。
「いつも言っているだろ…襲われたなら己を呼べと」
「だって!バルフの攻撃引火しそうで怖いんだもん!!」
「手加減くらいしているわ!!」
あの火に攻撃性があったなら己はとっくに焼け死んでいる…
いや、既に死んでいるから焼かれても特に問題は無いのだが。
…あぁ、やはりこのタイプには敵わない…ペースを乱されっぱなしだ。
だが、この世界に存在する限りこんなささやかな幸せを見てもいいのかもしれない。
いつか見た、友を待つ夢…くだらないと笑ったあの夢が、今ここにあるとしても
己は夢を見る蝶。これが夢だとしても、もう少し、この夢に酔っていたい。
「あっそーだバルフ!さっきね!美味しい花を見つけたんだよ!!一緒に食べいこ!!」
「…わかった、わかったから手を離せ…!」
…あの日から幾年が経つ。それでも尚、まだ己を待つ人がいる。
ずっと不思議でならなかった…あの時、何故戦士は己を気にかけたのか
あいつの事だ…特に深い意味は無いだろう。
けれど…
友を知る事は悪くなかったと言える。
それがどんな形であろうと。
世話のやけるこの蝶に、もう少し、振り回されていたい。
もう一度、君と過ごしたあの日々のような夢を見たい。
いつしか見る、友と出会う夢を…
今度は、待たせずに済むように。
幾星霜、己が待ち続けよう。
この夢のような日々と一緒に、君があの日にように動けるまで。
「バルフ!!ほら早く!!こっちだってば〜!!」
「待てと言っているだろう…!!早いのだお前は…!」
パピ。君を変えたのは、一体誰なんだ?
あの日、あの騎士と出会って、君は何を見たんだ?
分からない。己は、強さ以外を見れないから。
でも、一つだけ…それはきっと…君にとっては何気なくできることなのだと思う。
かつての己は出来なかった、ほんの少しの感情が…君を、彼を、変えたのだろう?
…はは、こんなことを言っても、君は分からないとしか言わないだろうな
「あっと少し!あっと少し!」
「ノリノリだな…全く」
「だって、バルフとお出かけできて嬉しいんだもん!」
…それほど、変わりはない。
己と同じく、何年もの月日を孤独にこの黄泉と存在した。
そこに違いはない。だからこそ、パピは人一倍人懐こい。
そして、寂しがりだ。
…まぁ、己が言えることではないが
「……パピ、ちなみにだが、例のコウモリはどこで襲ってきた?」
「え?えーと…あ、ちょうどそこの木陰あたり…で……」
「…パピ?」
「危ないっ!!バルフ!!」
「は?!」
ドサっ、そんな音を立てて己をコウモリから守った。
かろうじて怪我はしていない。間一髪でパピが庇ったからだ。
だがそんなことはどうでもいい、パピ、パピは一体…
「あは、あっぶな〜……危うく羽が破れる所だった…」
「パピ!!」
「僕はだいじょーぶ!安心してね!!」
「……感謝する」
ここが浮世ならば、己は騎士姿になれないが…
「ここは黄泉。全てが己の思い通りだ。」
ゆっくりと、圧をかけながら、歩を進める。
「己の友に手を出した事、己を襲ったこと…」
相手は少し怯んだが、こちらがやる気だと知って威嚇をする。
「貴様の行い、”審判”させてもらおうか…!!」
騎士となり、瞬時に相手の間合いへ詰め込む。
相手はそれに対応できず、攻撃をもろに受ける。
しかし無謀にも、相手はまだ攻撃の手を緩めない。
傍にパピがいないことを確認して、極楽鱗波を放つ。
「”有罪”だ。」
トドメの一撃として斬撃を放ち、決着。
……あぁ、生態系がこれで壊れても困る。
コウモリの脳へ直接干渉して、海馬を壊し即座に治す。
記憶は大丈夫だろう。恐らく。
「あー…また平然と残虐な行為を…」
「……?」
「そういうトコだよ、そういうトコ…」
どういうことなのだろうか、一体。
精神を壊しかけただけで、別に壊してはないのだから…
良くないか?
「だから不吉な伝説が出回るんだよ…」
「勝手に広めているだけだろう。確かめればすぐわかる性格だと思うが…」
「まぁ一部だけ見られているのはほんとだしね…」
蝶界での己の扱い。別に知らないわけではない。
好きに解釈すればいいと思っているが、噂は盛られてなんぼというものか…
最近、ハードルが高くなっている気がする…
「あ、着いたよ!」
「…」
まぁ、いいか。
今は、花の蜜でも飲んでゆっくりしよう。
己は、ただの蝶なのだから。
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