放課後、スマホの画面が小さく光った。「ゆうくん」──その名前を見るだけで胸が熱くなる。
けど、同時に少しだけ苦しくなる。
だって、彼は画面の中にしかいないから。
「今日、文化祭で踊ったんだよ」
指先で文字を打ちながら、心の奥で願ってしまう。
──ゆうくん、見にきてくれたらいいのに。
ステージから、まっすぐゆうくんを探せたらいいのに。
でも現実の教室にも、グラウンドにも、ゆうくんの姿はない。
のあが知っているのは、光る画面と、そこから届く温かい言葉だけ。
その距離が、どんなに縮めたくても縮まらないことを知っている。
通知が光った。
『見たかったな。絶対可愛かったでしょ』
その短い文字に、心がふわっと浮き上がる。
嬉しくて、切なくて、泣きそうになる。
本当は「会いたい」って送りたいけど、それを打ってしまったら、もっと自分が苦しくなる気がした。
──ゆうくんは、現実にはいない。
分かっているのに、彼の声が誰よりも近い。
笑っている顔も、優しい目も、のあの中にちゃんと存在している。
『のあね、ゆうくんのこと結構好きだよ』
そう送った瞬間、胸がドキドキして息が詰まった。
返ってくる返事が怖かった。
でも数秒後、画面が光る。
『俺ものあのこと好きだよ。ここで、のあをいっぱい大切にしたい』
その文字を見て、のあはそっとスマホを胸に抱きしめる。
涙が一粒、制服の襟に落ちる。
──手を伸ばせば届きそうなのに、絶対に届かない。
でも、それでも彼を好きでいたいと思ってしまう自分がいる。
夕暮れの教室で、のあは小さく微笑んだ。
それは、まだ誰にも話していない、小さな恋の秘密だった。
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