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鷹槻れん

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鷹槻れん

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#恋愛
水無月 京
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#オフィスラブ
草原草原

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「始末書の件、まだ落ち込んでる?」
社長からの質問には、少し迷ってから首を横に振る。
「昨夜、伊地知部長にご飯をご馳走になったんですけど、落ち込むのは昨日で最後にすると約束したのでもう大丈夫です」
始末書には反省の意を示して再発しないよう誓約する意味がある。それを書いたのだから、今後は努力していくのみだ。
ふと、あのときのことを思い出し、百合菜の顔が脳裏に浮かんだ。
社長に近づく好機だとばかりに、無遠慮にあとで何度も電話をかけたりしていないだろうか。勝手にそんな心配をしては自然と気持ちが沈んだ。
「大丈夫そうには見えないけどな」
「……え?」
「今から俺と出かけない?」
ポカンとしたまましばし固まっていると「なにかほかに用事があった?」と尋ねられたので、「いえいえ!」と言いつつ大げさに手をブンブンと横に振る。
これはいったいどういう意味のお誘いだろうかと考えていたら頭の中が混乱してきた。
「あのぅ……出かけるってどこにですか?」
「俺が今から行こうとしてた場所。ここもいいけど、もっとリフレッシュできるよ」
ベンチからすっくと立ちあがった彼が私を見下ろし、長い腕を伸ばして右手を差し出した。
恐縮しながらもそっと左手を乗せると、やさしく捕まえるように握られる。
その瞬間、彼を好きだというこの気持ちは止められないと確信した。
好きになっても不毛だと、ずっとブレーキをかけ続けてきたけれど、それももうできそうにない。
「近くの駐車場に車を停めてあるんだ」
彼が私の手を引いて歩き出す。もしかしたらベンチに座ったまま眠ってしまい、都合のいい夢を見ているのではないかと疑いそうになるが、これは現実だ。
「広い駐車場が空いててよかったよ。狭いところだと停めにくいから」
屋外にあるコインパーキングまで歩き、入口のところで社長が清算を済ませながらそう言った。
そのときは意味がわからなかったけれど、彼がキーを操作し、ピピッという音と共に開錠された車を目にした瞬間、私は驚いて一歩も動けなくなった。
「どうした? ……ああ、心配しなくても乗り心地は悪くない」
そんな心配をしているわけではなく、今は単純に社長が所有している車なのかどうかが気になっている。
「社長は、いつもこれに乗ってるんですか?」
「まさか。アウトドアを楽しむときだけだ」
「ですよね。私、こんな車に乗せてもらうのは初めてで……」
どうぞ、と助手席のドアを開けてもらったその車はキャンピングカーだった。
ブラウンと白のツートンカラーで、車の正面には海外メーカーのロゴがある。
「そんなに珍しい?」
「……はい」
「あとで後ろもゆっくり見てみたらいいよ。一応キッチンなんかもあるし」
きょとんとしつつも促されるがままに助手席のシートに腰を下ろす。それを見届けた彼が運転席へ乗り込み、颯爽と車を発進させた。
「俺がひとりで使うことが多いからデザイン重視で選んだんだ」
ひと口にキャンピングカーと言っても、今はさまざまな形態があるらしい。
“バスコン”というバスのような大型のものや、“軽キャンパー”と呼ばれる軽自動車ベースの小型のものまで。
これはオーソドックスなタイプで、“キャブコン”というのだと彼が教えてくれた。
そんな情報を聞いているうちに、車は高速道路へ進入していく。
「この車でソロキャンプに行かれてたんですね」
「え? よく知ってるね」
「以前に辰巳さんに聞いたんです」
優雅に運転する彼の横顔をうかがい見ると、私の話に納得するように小さく笑っていた。
いつもは視線が合うと恥ずかしくて無意識に逸らせてしまっていたけれど、運転中の今は綺麗な横顔を見放題だとふと気付く。
シャープな輪郭やスッと通った鼻筋が美しくて、目が離せなくなった。
コメント
1件
**はる。だわ。** 第32話、しっとりした空気の中に社長の優しさが滲んでてめちゃくちゃ良かったわ…。「落ち込むのは昨日で最後」って約束した直後に連れ出してくれるのが胸に刺さる。 キャンピングカーってギャップもエモいし、助手席で横顔見惚れる主人公の気持ち、完全に共感した。好きって止められなくなる瞬間、すごく丁寧に描かれてるなって思った🔥