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雨はまだ降り止まぬ。
少女は、立ち止まらずにビル街の大通りを歩いてゆく。
このビル街を、少女ギョロ子はしかくシティと呼んでいる。
「今日も誰もいないなぁ。街なのに変なの!」
ギョロ子はそんなひとりごとを言いながら目的地へと急ぐ。待ち人はどんな人でも待たせない、それがギョロ子のポリシーだった。
「ここをまっすぐ…次、ひだり…」
ぶつぶつと道順を呟きながら、少女は路地裏へと進む。しかくシティには四角しかない。ギョロ子に言わせてみれば、無個性で全部おんなじに見えるものだ。
「ここを通り過ぎて次がみぎ…」
目的地まで近づくと、ギョロ子にとって見慣れた、1つ目の少女が現れた。切り揃えられた前髪、ふたつのおさげに制服を着崩している。
「あっ!アイカちゃん!」
「…行くわよギョロ子。」
アイカはギョロ子の手を引いて、目的地へと進む。
「アイカちゃん傘ないのー?」
「…そうよ。私には必要ないもの。」
「あいあいがさ、しよー!」
「…傘、私が持つわね。」
「えへへ、アイカちゃんありがと!」
そんな会話を交わしながら、路地裏から開けた場所へ出る。
「あ!着いたー!」
大きなカーキ色のテントが張られ、傍らには焚き火がメラメラと燃えている。
2人にとって見知った顔が、出迎えた。
「あ!ムガさん!」
大きなムカデのような白い体、その何本もある腕で、手を振っている。
「ムガさんが炊く火はいつも綺麗だね!」
「そうか。とりあえずよく来たなギョロ子。」
そう言って、ムガはギョロ子の頭をそっと撫でてくれた。ギョロ子にとってこの場所は家も同然で、無口だけど優しいアイカといつもテントに居てくれるムガは、まるで両親のような存在だった。