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付き合い始めてから、一か月。
親戚同士で恋人になるなんて、普通じゃない。
そんなこと、二人とも分かっていた。
だから絶対に秘密。
家族にも、親戚にも、学校の友達にも言えない。
けれど。
秘密だからこそ、会えた時の嬉しさは何倍にもなった。
「……ライ、近い」
「近づいてんのマナだろ」
「は!? 違うし!」
休日。
駅前の小さなゲームセンター。
今日は“たまたま近くに用事があった親戚同士”として会っていた。
実際は、デートだけど。
高校一年生のマナは制服じゃないライを見るたび、未だにドキッとする。
黒パーカーにキャップを被ったライは、高校生というより大学生みたいだった。
「マナ、これ取って」
「無茶言うなって!」
クレーンゲームの景品を指差される。
マナが苦戦している横で、ライが笑っていた。
「下手」
「うるさい!」
「貸して」
後ろから腕が伸びる。
自然に包み込まれるみたいな体勢になって、マナの思考が止まった。
「っ……!」
「ここ狙えばいける」
耳元で説明される。
近い。
匂いも、体温も、全部近い。
「ライ、近いって……!」
「集中しろ」
「できるわけないだろ!」
ガコン。
景品が落ちる。
「あ」
「取れた」
ライが笑いながら景品を持ち上げた。
「はい」
「……俺に?」
「マナ欲しかったんだろ」
「……ありがと」
嬉しい。
こういう何気ないこと全部が。
「かわい」
「だからすぐそういうこと言う」
「本当だし」
平然としてるライに対して、マナだけ毎回振り回される。
悔しい。
でも好き。
そのあと二人でクレープを食べながら街を歩く。
休日の人混み。
恋人繋ぎしてるカップルが目に入って、マナは少し視線を逸らした。
「……」
「どうした」
「別に」
「嘘」
ライはすぐ気づく。
そういうところがずるい。
「……普通のカップルみたいなの、できねぇなって」
ぽつりと零す。
するとライが少し黙った。
「……ごめん」
「なんでライが謝んの」
「隠させてるみたいで」
「違うし」
マナは慌てて否定した。
「俺が嫌とかじゃなくて……」
「うん」
「ただ、ちょっと思っただけ」
親戚。
男同士。
高校生。
普通じゃない条件ばかりだ。
だから手を繋ぐだけでも周りを気にしてしまう。
でも。
「……人少ないとこ行く?」
ライが小さく言った。
「え」
「マナ、甘えたい顔してる」
「してない!」
「してる」
笑われる。
そのまま連れて行かれたのは、駅から少し離れた静かな公園だった。
夕方で、人も少ない。
ベンチに座ると、風が気持ちよかった。
「マナ」
「ん?」
「こっち」
ライが手を差し出す。
数秒迷ってから、そっと握った。
大きい手。
温かい。
それだけで安心する。
「……恋人っぽい」
「今さら?」
「うるさい」
ライが笑う。
そのまま指を絡められて、マナの心臓が跳ねた。
「っ……」
「顔赤」
「ライのせい!」
「俺だけ?」
「そう!」
完全に開き直る。
ライは楽しそうだった。
「マナってほんと分かりやすい」
「ライが余裕ありすぎなんだよ」
「余裕ないって」
「嘘」
「じゃあ試す?」
「……は?」
ライが少し近づく。
その目を見た瞬間、マナは察した。
「ちょ、待っ……」
「キスしたい」
「っ……!」
直球。
無理。
心臓が死ぬ。
「人いるかもだろ……」
「見てる人いない」
「でも……」
ライがじっと見つめてくる。
そんな目されたら断れない。
「……少しだけ」
「ん」
ライが嬉しそうに笑う。
その顔見ると、許してしまう。
そっと頬に手が触れる。
優しく撫でられて、マナは目を閉じた。
軽く触れる唇。
それだけなのに、全身が熱くなる。
「ん……」
離れたあと、ライが小さく息を吐く。
「やば」
「な、なにが……」
「好きすぎる」
「っ……!」
マナは顔を覆った。
もう無理。
恥ずかしい。
好き。
感情が忙しすぎる。
するとライが隣で笑いながら、小さく肩を抱いた。
「マナ」
「……ん」
「受験終わったら、もっといっぱい会えるかな」
「……大学行っても?」
「行っても」
その言葉が嬉しかった。
未来の中に、自分がいる。
それだけで。
「ライ」
「なに」
「……離れんなよ」
思わず零れた本音。
ライが少し驚いた顔をする。
年上のライは、卒業して先に進んでいく。
置いていかれる気がして、不安になる時があった。
でも。
「離れない」
ライが即答した。
「絶対」
その声があまりにも真っ直ぐで、胸が締め付けられる。
「……約束だからな」
「うん」
次の瞬間、額に軽くキスされる。
「っ」
「これは約束のやつ」
「……恥ずかし」
「かわいい」
「またそれ!」
夕暮れの公園。
誰にも知られない場所で、二人だけが笑っていた。
秘密の恋人として。