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チンピラ隊長が今度こそ意識を手放した。下っ端共も起きる様子がないし、次は後片付けやな。
いや、その前にこれだけは聞いとかんと落ち着かん。
「お前ら、なんで助けに来たんや?」
俺の問いに、レオンは少し驚いたような顔をしたが、すぐにニヤリと笑った。
「さあな。昔の仲間が面白いことやってるって聞いたから、冷やかしでちょっと顔を出しただけだ。――うぐっ!?」
突然、レオンの言葉が途切れた。何事かと見れば、やつは脇腹を押さえてうずくまっとる。何やねん、急に苦しみ出して。
「変な意地をはるのは、もう止めなさい」
冷たく響くリリィの声。その視線はまっすぐレオンに突き刺さっとる。
「ちょっ……! おい、俺には戦闘の傷が……」
「素直にならないなら、もう一回いくわよ」
リリィが再び肘を上げると、レオンは慌てて後ずさった。こいつ、ホンマにやる気やな。
「くっ……!!」
レオンが苦しげに息を飲む。まさか、今のでダメージが響いたんか? それとも別の理由か。
「ナージェ……その、前はすまなかったな」
急に真剣な顔をして、レオンが俺に向き直った。
「前やて?」
「お前をパーティーから追放したことだ。ずっと……悔やんでいた」
レオンがぽつりと告げる。は? そんな様子、見せたことなかったやんけ。コイツ、ワイを切り捨てた時も、別に何の未練もなさそうにしとったやろ。
「どういうこっちゃ?」
「俺もある意味では、そこのチンピラ隊長と同じだ。強力なスキルで己を過信して……他の奴を下に見てた。特に、剣術スキルを取得した直後はそうだった。最近、冒険者として壁にぶち当たって、昔のことを思い出すようになって……」
レオンの語尾が少し濁る。まさか、コイツがこんな風に自分を省みる日が来るとはな。あんなに自信満々で突っ走ってたやつが、ここまで自省するなんて。
「レオンと私がこの街に来たのは、偶然じゃないのよ。ナージェが向かった方角の街々を巡ってたとき、妙なリンゴ畑があるって噂を聞いてね。ひょっとしたらナージェの手がかりがあるかもしれないと思って、それでここに来たの」
リリィが静かに言う。
……そういうことやったんか。
「やけど、再会時にはそんなん一言も言ってなかったやんけ」
ワイは腕を組み、じっとレオンとリリィを見据えた。二人とも、どこかバツの悪そうな顔をしとる。
「だから、それはレオンのせいなのよ。こいつ、素直になれなくて変な憎まれ口叩いて……」
リリィがジト目でレオンを睨む。対するレオンは視線をそらしながら、ボソッと呟いた。
「そのことは反省してるっつーの。変なことばっかり言ってしまったからな」
反省、ねぇ。
ワイは肩をすくめた。レオンは、基本的に直情型の脳筋や。口より先に拳が出るタイプのくせに、時々、妙に策士ぶったことをしようとして失敗する。ワイに対して交渉事のようなこともしとったが、確かに変な話ばかりやった。本当に通ると思っとったわけやなく、自分でも何を言っとるか分かっとらんかった可能性は十分にあるな。
レオンは目を伏せたまま、ふっと息を吐く。リリィも、どこか気まずげに唇を噛んでいる。
ワイはしばし沈黙したあと、小さく笑う。
「……そうか」
たった一言やったが、空気がわずかに緩んだ気がした。
「すまなかった、ナージェ」
レオンが真っ直ぐワイを見据えて言う。
「ごめんなさい。反省してるわ。許して」
リリィも、静かに頭を下げる。二人とも、本気で謝っとる。
「謝る必要はないで」
ワイは少し首を傾げながら、ゆっくりと言葉を続ける。
「あのとき、ワイのスキルが役立たずやったんは事実や。スキル獲得から一か月は様子見してくれたし、今思えば十分な待遇やったで」
スキル獲得、才能の開花、レアアイテム入手、装備の破損、身体の欠損……。パーティーのバランスが崩れる要因はいくらでもある。強くなるやつもおれば、逆に足を引っ張るようになるやつもおる。それに伴ってメンバーを入れ替えるのは、冒険者にとっては珍しくもない話や。
気の早いリーダーは一週間で見限ることもあるが、それはいくらなんでも拙速すぎるやろ。逆に一年以上も様子見するパーティーもあるらしいが、それはそれで対応が遅すぎる。実力差のあるメンバーのままで無理に活動を続けるのは、お互いにとって悪いことや。レオンやリリィがワイを追放した「一か月」いう期間は、そこそこ妥当やった。
当時も、頭では分かっとった。せやかて、自分のこととなると、そう簡単には割り切れへんのや。追放直後は、無力感や悔しさでいっぱいやった。見返してやりたいという気持ちもあったし、情けなさに押しつぶされそうにもなった。
やけど──こうしてこいつらが頭を下げてくれとる以上、ワイだっていつまでもゴチャゴチャ言うわけにいかんやろ。
「……」
「ナージェ……」
レオンとリリィがワイを見る。何か言いたげに口を開きかけたが、すぐに閉じた。
「ええんや。昔みたいに一心同体……は言い過ぎやけど、これからは仲良くやっていこうや」
俺は二人と握手を交わす。しっかりと、力強く。
少し離れたところで、ケイナが何や感動したような様子で見つめていた。
果樹園を夜風が吹き抜ける。甘やかな香りを運びながら。
――どこか、懐かしい風やった。