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書斎の中──
「……ヴィクトール、貴方が……?」
「いや、私は……君が……?」
ふたり、互いに“仕掛け人”だと思い込んで戸惑い、視線を合わせられない。
それでも、漂う甘いワインの香り、キャンドルの明かり、静かなピアノのBGM。
──何より、そこにいるのは、互いに一番気を許す相手。
「……まあいい。せっかくの演出だ。座ろうか、ハイネ」
「……ええ、ではお言葉に甘えて」
テーブルを挟んで向かい合うふたり。だが、どこか距離が近い。
「それにしても、君の顔をこうして眺めながら静かに過ごすのは、悪くないな」
「……お戯れを」
「いや、真面目に言ってる」
ふと、目を細めて。
「昔は、子供みたいだと思っていたが、今では──」
「……いえ、言わないでください」
「……?」
「これ以上、優しくされたら……」
声が震えている。目を伏せている。今にも何かがこぼれそうで。
「……私は、“王室教師”でいられなくなってしまう」
「……ハイネ」
その名を呼んだ瞬間、すべてが変わる。距離も、役職も、気持ちのセーブも──
「……大切な人を、名前で呼んではいけないのか?」
「……ヴィクトール……」
目が合い、どちらからともなく、グラスを置き、手が伸び──
……しかし。
「あーーー!!!もう限界!!!早くキスしろーー!!!」
ドアの外からリヒトの声。
「「……!!?」」
ガタッと立ち上がり、走って外に出ると、そこには…
耳を真っ赤にして目をそらすブルーノ。
普通に頷いてるカイ。
ジャパニーズ土下座してるリヒト。
どこかで「やっぱりな……」とつぶやくレオンハルト。
⸻
「……もう、君たちには敵わないな」
「………怒る気も、失せました……」
ため息と笑みがこぼれる、そんな夜。
──名前を呼び合うだけで、すべてが伝わるような、恋のはじまり。