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数日後・王室教師の書斎にて
「おや、手紙でしょうか。」
(差出人は、ヴィクトール…なぜわざわざ手紙を?)
珍しく直筆で届いた封筒。封を切ると、柔らかな筆致でこう綴られていた。
『ハイネへ
あの夜のことを思い出すと、どうにも顔がにやけてしまって困る。
まったく、君のせいだ。
君が目の前で微笑んだだけで、私は世界の秩序を乱しそうになる。
王子たちは今日、四人で夜会のようだ。
今夜、書斎で君を待つ。
王室教師ではなく、ハイネとして会いたい。
追伸:君の好きなドボシュトルテも用意してある。』
…手紙を握る手が震えている。
「……ほんとうに、油断も隙もない方だ……」
でも、口元は微かにゆるんでいる。
──ろうそくの灯りだけが揺れる静かな部屋に、ハイネが現れる。
「……遅れてすみません。用件が立て込んでいて」
「いや、来てくれただけで嬉しい。座って」
ふたり、ワインとケーキを挟んで静かに過ごす。あの時よりも、近い距離で。
「……このままだと、また王子たちにからかわれそうだな」
「それは……貴方の甘やかしぶりが原因では」
「ハイネが可愛いから仕方がない」
「……っ……そうやって、また……」
顔を隠すハイネ。その指先に、ヴィクトールの手がふれる
「……私は、君を困らせたいわけじゃない」
「ただ……毎日、“好きだ”と伝えたいだけだ」
深夜の静けさが、ふたりの心音すら聞こえそうなほどの距離にして。
「……“好き”なんて言葉じゃ、足りません」
それでも、目をそらさず、まっすぐな声で。
「……でも、“ヴィクトール”と呼ぶたびに、伝わる気がするんです」
「……なら、もっと呼んでくれ。君の声で、君の唇で」
そっと、額がふれあう。やがて──
「……おやすみなさい、ヴィクトール」
「おやすみ、ハイネ」
今宵は、名前だけですべてが伝わる。好きの続きを、綴るように。