「…チッ」
登校中。
俺はいつもより力のこもった舌打ちをする。
いつもなら日向とか月島とかにするはずの舌打ちだが、今日ばかりは自分自身に舌打ちをしたくなってしまう。
ムカつくことに起きた時はそうでもなかった頭痛が今はこう…グワングワンする感じで痛くなってるからだ。
そのせいで今日向に負けるのではないかと思うぐらい遅れている。
「負けてたまるかボケェ…」
今は俺の方が勝利数が多い。でもあいつは成長がクソ早いから一回たりとも負けたくねぇ。
追いつかれるのはムカつく。なんかムカつく。
「…やっとついた」
現在時刻6時50分。朝練開始10分前だ。
体育館には日向のボケは当然ながらいるし、なんなら朝が弱い月島とか東峰さん西谷さんあたり以外はほとんどが練習を始めている。
「おーい影山!!おせーぞ!?」
サーブ練をしていた日向が話しかけてくる。
いつもならとんでもない罵声(笑)を言ってやりたいところだが、それどころじゃねぇ。
声がとにかく頭に響いてヤバい。
…いや耳?耳と頭の間で耳鳴りのようなものがしてる。いままでしたことないからわかんねぇけど。
「うっせぇボケェ」
かなりの大声で叫んだつもりが近くの日向にしか聞こえないぐらいの声しか出なかった。
しかも自分の声も響くようになってる。
「あれぇ?影山クゥーン?おねむですかぁー?」
日向が煽ってくる。あぁもう頭が痛いせいでボケ以外の言葉が出てこねぇ。
でもそのボケすら声に出すことがきつい。
「…あぁ」
適当に返事をした。とにかく部室で一回座りたい。
自分でもなんとなくふらついてるのがわかる。
驚いたように俺を呼ぶ日向と田中先輩を無視して部室に向かった。
部室は2階だ。2階に上がるまでに階段があるが、その一段一段はかなり大きい。普段なら2、3段飛ばしで登れるが、今は一段が精一杯だった。
というか…半分ちょいで無理だった。
踊り場と2階までの真ん中ぐらいで限界が来た。
俺の頭は自分の意思とは真反対の状態になり、
治るどころか酷くなっている。
視界が少しぼやける。いや、ぼやけるとは少し違うが、世界が回って見えるようになった。
階段の手すりを掴みながら、うずくまってしまった。
少し休憩したら、少ししたら部室に行こうと思った矢先、上から声がした
「な…影山!?」
多分澤村さんの声だ。耳鳴りで聞こえにくい。
「どうした!?腹でも痛いのか??」
驚きと心配が混ざったような声だ。
見えないながら、俺に聞きながら背中をさすってくれてるのが分かる。
「…頭が、痛くて。」
声が途切れ途切れになる。もっとハキハキ喋れないのかこの口は。
「頭か…動けそうか?」
おでこを触ってくる。多分熱があるかどうか確かめたのだろう。 少しホッとする。
答えようとして口を開けるが、体に力が入らなくなってしまった。そのまま頭を澤村さんの肩に乗せる形になってしまった。
今感覚があるのは正直自分が息をしているかどうかわかる程度だ。頭がとにかく重い。
「喋るのきついか?」
なんとか頭を縦に振る。それでも少ししか動かしてない。なのに目眩がひどくなる。
「…よし、ちょっと我慢してくれ。」
澤村さんが自分の荷物とおれの荷物をその辺に置いて俺を背中に背負う。
「なるべく揺らさないようにはするから、保健室まで頑張れよ。」
申し訳ないのと恥ずかしいので降りたかったが、そんな力が出せるわけもなく澤村さんのジャージを強く握るしかできなかった。
体育館の横を通る。澤村さんが背負ってくれてるが、少しでも揺れる度に息が少しづつ荒くなってしまう。
そこに東峰さんと思う人が通りかかった。
「ど…どうした澤村…と影山?」
焦っているのだろうか、少し早口で澤村さんに話しかけている。
「後で話すから、とりあえず部活頼んでいいか?影山がきつそうだから保健室に行ってくる。」
「わ、わかった。気をつけて!」
澤村さんはそのまま歩を進めた。
俺に気を遣ってくれたのだろうか。小声で話してくれた。すぐにでも謝りたいし感謝の言葉を言いたいが、耐えられない頭痛に襲われた。
「いッっ…」
思わず澤村さんの首に頭を押し付けてしまう。あまりにもきつい。痛い。それしか思えなくなってしまった。
しかもこの痛みが波のように伝わってくる。少ししたらまた痛みがきて、ジャージを握る手が強くなる。
その度に澤村さんは
「大丈夫。大丈夫だ。」
っていって宥めてくれる。本当に親父のように感じてしまう。俺も3年になったらこんなふうに頼れる先輩になれるだろうか。
そうこうしているうちに保健室に着いた。
着いてからはすぐにベットに寝かされたからすぐに目を閉じてしまった。
でもその眠るまでの数分、澤村さんがそばにいてくれてた。やっぱり安心して眠れた。
目を開けたら誰もいなかった。
カーテンを開けたら先生がいたが、時刻は15時。朝練が終わっているどころかほぼ5時間目がおわっているところだ。
でも寝た分頭痛はほとんどなかった。
先生はまだ寝ていなさいと言ったけれど、どうせあと1時間帰るのだからと無理やり説得して教室に向かった
戻ってからすぐ、日向が話しかけてきた。
「お前大丈夫か??キャプテンから倒れたって聞いたぞ!?」
「もう元気だボケ」
「うっはいつもの影山クンじゃん!元気そうで何よりですぅー!!」
拗ねたガキのように話す。でもこいつなりに心配していたのかと思うと…アホに見えてくる。
「あ?なんだよその顔!?笑ってんのか!?気持ち悪いぞ!何企んでる!?」
…笑ったつもりもないし変な顔をしてる自覚もない。でも口元は上がってる気がする。
「むしかよ!?」
日向が話しかけてくるがもうホームルームが始まる。早く座れとだけ言って俺は机につっぷす
終わってから少しして、澤村さんと菅原さんが教室にきた。
「影山!お前教室に戻ってたんだな!調子どうだ?」
菅原さんがケラケラしながら頭を柔めに撫でてくる。身長的に背伸びしてるのが少し面白い。
「…体調管理くらいするだろうと思って帰ったんだとおもったんだがな。」
澤村さんが笑顔のまま強い圧で話しかけてくる。これはヤバい。
「で、でもほとんど頭痛ないっす!部活もできます!!」
今日は意地でも部活がしたかった。朝できなかった分余計にやりたい。
「まだほとんどなんだろうが!!それに保健室の先生がゆうには貧血だそうだが。貧血は数時間寝るだけじゃ治らないぞ。」
こういう時の澤村さんは怖い。いつも怖いが体調関係になると圧が本当にヤバい。
「そーだぞ影山!やる気はいいことだが休みも大事だぞー?今日できない分は明日やるべ!」
うぐ、菅原さんにも言われると俺でも流石に無理やり行くことは難しい。それに今日やったとして明日の練習で本気が出せずにまた倒れるとかは絶対にやりたくねぇ。
「…分かりました。帰ります。」
多分相当ぶっきらぼうな返しになった。俺の返事を聞いた澤村さんがピキり、菅原さんが爆笑してるんだからそうなんだろう。
「…寄り道とか夜更かしとかしてみろ?」
澤村さんが追い討ちをかけてくる。流石に肩が縮こまる。それでもってやっぱり菅原さんは笑ってる。
「なーなー影山!今日くらい休んだらどうですぅー?」
日向がニタニタしながら言ってくる。
「ま、その分おれは上手くなりますけどねぇー!!」
日向が自信満々に胸を張る。
バカじゃねえのかこのボケ。俺より上手くなるわけないだろう。
「ま、その分ぐらいのハンデはやる。」
からかってやる。そしたらやっぱり噛みついてくる。
「と、に、か、く!!今日はもうかえんなさい!!」
澤村さんに喝を入れられる。
…明日は6時前にこよう。
そう思いながら自転車小屋に向かった。
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