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「公爵に何を送ればいいか、と?」
端麗な顔を少し嫌そうに歪めて、彼女はそう尋ねる。そして、その隣でにこにことして話を聞いていた、ブロンドの髪を持つ彼女もうーん、と声を漏らした。
「そうね…。アタシはあの人のこと、そんなに詳しくないからなんとも言えないんだけど……普通に茶葉でいいんじゃない?前に送ったっていうんなら、ティーカップとかは?」
うんうんと唸りを上げていたナヴィアは、ふいに思いついたように人差し指を立て、そう言った。そして、どう?と彼女は隣の決闘代理人へ首を傾げる。が、当の本人は否定も肯定もせず、目を伏せながらコーヒーを唇に寄せただけだった。そんなクロリンデに、ナヴィアは溜息をついて少しばかりの悪態を零しながらヌヴィレットの方へ向き直る。
「ま、あんたが選んでくれたってこと自体が、彼にとっては相当嬉しいことでしょうから。なんでもいいんじゃない?きっと喜んでくれるよ」
お手製のマカロンをひとつ指でつかみ、ナヴィアはそれを口に含む。ん〜っ、と満足気な声を漏らして、彼女は頬を撫でた。だが、なんでも、と言われると尚更困る。そう思ってくれているのは大変嬉しいのだが……。そんなヌヴィレットを片目を開き、ちらと確認した代理人はどこから持ち出したのか、大量の雑誌を机の上にばん、と置いた。
「ヌヴィレット様、ここ最近の女性用雑誌です。ページの大半は異性や友人へのプレゼントのことが記してあります。もし決まらないのであれば、そこから選んでみては?」
「わあ、クロリンデ…こんなの何で持ってるのよ?いや……すごいわね…冗談を言おうと思ったんだけど、あまりにも凄くて出てこないや……。」
「まあ、事情を知っているので。一応用意しておこうと思い…」
「あぁ……」
と、2人はなにやら意味深な会話を繰り返し、ナヴィアが顔の死んでいるクロリンデをいたわる様な目で見つめ始める。クロリンデはふと普段通りに戻り、とんとんと雑誌を一纏めにしてからこちらへ差し出してきた。
…本当に凄い量だ。
ぱら、と1番上の雑誌を捲り、ページに目を通す。なにやらこの号は手作りのお菓子等が多い。出版日を見れば2月号。世間ではバレンタインデーの辺りだ。それは、多いわけで。
うんうん、と先程のナヴィアのように次はヌヴィレットが唸り始める。数十分、または数時間後。ふいに「…これに」とヌヴィレットは声を上げ、2人にページを見せた。
「……へぇ!いいじゃない!さすがのセンスねぇ!!」
「えぇ、流石です。きっとあれは跳ね上がるほど喜ぶでしょうね。
いつ買いに行きましょう?私が護衛をしますが。」
まあまあ…!とヌヴィレットの差し出したページを頷きながら見つめ、満足そうにナヴィアは微笑んだ。その横で彼女を愛おしそうに見つめたクロリンデは、ヌヴィレットに向き直り、そう尋ねた。
「ふむ…。だが、護衛は必要ない。君の心遣い、感謝しよう」
ヌヴィレットは顔をほころばせ、彼女に答えを返す。微笑みかけられた彼女は、一瞬固まったかと思えば咳払いをひとつし、そうですか、と目を伏せながら答えた。
ふいに、とんとん、とヌヴィレットの執務室のドアが叩かれる。す、と3人は立ち上がりティーカップを慣れた手つきでひとまとまりにした。その後ナヴィアは、傘を手に取り、クロリンデは机上の小さな時計をポケットへ入れ直す。幾度も繰り返してきた流れだ。動揺するわけもない。
「ヌヴィレットさま!」と部屋の外からは、メリュジーヌの呼び掛けが聞こえきた。あぁ、と外へ声をかけたヌヴィレットの横で、人知れず2人は目線を交わしあい、いたいけな恋を見てふふ、と笑ったのだった。