大きな門。そこに並ぶ多くの人々。
どこか武骨な空気を放つ、街の景観。
――鉱山都市ミラエルツ。
「うわー! 夜なのに、人が凄い並んでる!」
「ここはミラエルツの中でも一番大きい門で、最も賑やかなんです。
たくさんの鉱石を産出していますからね。流通や人の往来が活発で――」
「ふむふむ、なるほど」
「アイナさん。もし待つのがお嫌でしたら、例のカードで入っちゃうっていう手もありますよ」
エミリアさんがプラチナカードのことを踏まえて提案する。
確かにあれを見せれば、順番は優先してくれそうではあるけど――
「アレ、あんまり出したくないんですよね。変に目立つというか、警戒されそうで」
「そうなんですか? それではあまり、出さない方が良いですね」
「今までに見せたのって、ルークとエミリアさん、後はクレントスの守衛の騎士さんたちと、宿屋の女将さん……かな?
出さないで旅を続けられるなら、できるだけ封印しちゃおうと思ってます」
この言葉に、ルークも頷く。
「甘い汁を吸おうという連中が近付いてくるかもしれませんからね。
使うべきときには使ったほうが良いですが、普段使わないのには賛成です」
「というわけで、ミラエルツには冒険者カードで入りましょう!
私はFランクですが!」
「私はD-ランクです」
「……あ、あれ? わたしが一番高いんですか? わたしはD+ランクです!」
どうやらエミリアさんが一番高い模様。
「ええ……?
ルークさんの実力なら、普通にCランクくらいあると思ったんですけど……!」
「いえ……。仕事にかまけていて、ランク上げにはあまり力を入れてなくてですね……」
ルークは誤魔化すように笑った。
それをフォローする形で私も口を挟む。
「王都まで行ったら、ランク上げも考えているんですけどね。それまでは金策です」
「……え? 金策?」
「はい、金策です。お金があまりないので、ミラエルツでお金を稼ぐのです」
「あ、そうだったんですか。
もし良ければ、わたしもある程度は手持ちがありますので、まずは王都に――」
「いえ、ここで金策です。これは決定事項なのです」
「はうぅ……。わ、分かりました……」
謎の圧力でエミリアさんを屈服させる。
確かに王都まで行けば、ガルーナ村の疫病解決のご褒美をもらえるかもしれない。
それに、そもそも王都で金策するというのも良い案だ。
しかし……私はガルルンの置物が届くのを、ミラエルツで待たなければいけないのだ。
約束しちゃったからね。
それにまさか、エミリアさんのお金を頼りに王都まで行くなんて、そんな発想はまったく出てこなかったわけだし。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「冒険者カードのご提示、ありがとうございます。
良いご滞在を!」
20分ほど待って、ようやくミラエルツの中に入ることが出来た。
ルークは守衛を見ながら、何だか優しい顔をしている。
「私も先日まで守衛の仕事をしていましたが……。
あまり時間は経っていないはずなのに、とても懐かしく感じます」
「あはは、急に色々なことがあったもんね。
ルークにしたら、仕事を辞めて私に付いてくるってだけでも大変だったろうに、その後ガルーナ村であんなこともあったし――」
「……え?
アイナさんとルークさんって、知り合って間もないんですか?」
エミリアさんはきょとんとした顔を見せる。
「えっと、まだ一か月くらいだよね?」
「そうですね。それが何か?」
「いえ、それにしてはずいぶん信頼感があるなぁと思いまして……。何だかお羨ましいです!」
ふむ、言われてみればそうかも。
出会って間もないときなんて、私もルークに敬語を使っていたりしたもんね。
今考えると、やり場のない恥ずかしさもあったりして。
「……本当に、色々あったからね。さて、まずは宿屋を探そっか」
「そうですね、確か向こうの方にあったと思います」
「ああ、ルークは初めてじゃなかったもんね。それじゃ案内よろしくー」
「はい、こちらへ」
「……うん。やっぱり様になってますよねぇ」
何だかすごい納得したエミリアさんの声が、風に乗って聞こえてきた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「いただきまーす」
「いただきます」
「神よ、今宵の糧に感謝の祈りを――」
よーし、ご飯だ、ご飯!
宿屋の食堂は、時間も20時だというのに大賑わいだった。
お酒も提供しているようで、どちらかといえば酒場として賑わっている……という感じもした。
それにしても、クレントスやガルーナ村で見掛けた人より逞しい人が多いのは、ここが鉱山都市だからだろうか。
何せ鉱石って重いし、それを扱う力仕事が多そうだし。
ということは――
「む! このお肉、めっちゃ塩効いてる!
……でもそれが良い! 美味しい~♪」
肉体労働には濃い味!
私は別に肉体労働はしてないけど、今日は一日中歩いてたから味わいも格別だ。
「さすが、重労働が多い街なだけあります。
私としても、ここの料理はがっつりとしていて好きですね」
ルークも気に入っている様子だ。
若いんだから、しっかり食べないとね!
「アイナさん、こっちのお料理も美味しいですよ! いくらでも食べられそう~」
エミリアさんもとても喜んで食べている。
でも、あなたはいくらでもは食べないでください。ほどほどに。
「はー、食べた食べた~。満足~♪」
「はい、とても美味しかったです」
食事が終わって|寛《くつろ》いでいる私とルーク。
ちなみにエミリアさんはまだ食べている。
「エミリアさんが食べ終わったら部屋に戻ろっか。
明日の集合は朝の7時で良いですか?」
「はい、分かりました」
「分かりました!
……あの、もう食べ終わったのでしたら、戻って頂いても大丈夫ですよ?」
「いえいえ? お待ちしてますよー」
「そうですか? そんなに気を遣って頂かなくても良いのですが……」
……うん?
何だかエミリアさんが遠慮がちな気がするぞ? 何だろう……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
エミリアさんが食べ終わったところで、三人でそれぞれの部屋に向かった。
それぞれの部屋とはいっても、みんな隣り合っている部屋が取れたので、ドアは目と鼻の先だ。
そしてドアの前で、就寝の挨拶――
「それじゃおやすみなさい」
「アイナ様、おやすみなさいませ。エミリアさんも、おやすみなさい」
「はい、おやすみなさい――
……って、あれ!?」
私が部屋に入ろうとしたとき、エミリアさんが大きな声を出した。
「え? ど、どうかしましたか!?」
「あ、えーっと……アイナさんとルークさんって、別々のお部屋なんですか?」
「……え? もちろんそうですけど、何で?」
「何でって……、一緒の部屋かと思っておりまして……」
意味が分からず、私とルークは顔を見合わせる。
その後、5秒くらいかな? お互いようやく気付いたけど、それも見事にハモってしまったわけで。
「「――いやいや、そういう関係じゃないから!!」」
エミリアさんのぽかんとした表情が、とっても印象的だったね。
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