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部屋に入って、一息つく。
「まったく、エミリアさんったら――」
……想定外のことを言われて、何だかよく分からない動悸が止まらない。
うん、ひとまずこれは置いておこう。
間違っても恋心ではないからね。良い子のみんなは勘違いしないように。
まぁそれはそれとして、折角の一人の時間だ。
しっかりとのんびりすることにしよう。
今回取ったこの部屋は、銀貨8枚の部屋。
クレントスでは金貨1枚の部屋に泊まっていたから、それに比べると――
……という感じはあるけど、ランクがひとつ落ちても問題はない。
「お風呂は欲しかったけど……まぁ、仕方ないか」
うん、お風呂だけはちょっと、残念ではあるんだけど。
何せ宿代は三人分掛かるから、出来るだけ節約していかないとね。
私とエミリアさんを同じ部屋にしても良かったんだけど、私はプライベートも出来るだけ大切にしたい派なのだ。
「それにしても……うーん、久々にのんびりできそう……!」
伸びながら、ひとり呟く。
ガルーナ村では色々あって、『村を救った錬金術師』なんてポジションになっちゃったから、少し堅苦しく振る舞っていた節があった。
それはそれで悪くはないんだけど、私はそもそも普通の庶民。
英雄視されるよりも、『旅をしているただの錬金術師』の方がよっぽど居心地が良いのだ。
「……とりあえず今日はやりたいこともあるし、先に身の回りのことを済ませておこうかな」
私はひとまず、着替えや明日の用意をぱぱっと済ませることにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――というわけで、ぱぱっと済ませてきた。
このまま寝落ちしても、今日はもう問題ないぞ。
「ひとまずお茶でも飲もう。えい、れんきーんっ」
バチッ……という音と共に『お湯』を作る。
この技術――というか発想は今日生まれたばかりなんだけど、本当に便利だよね。
お風呂が無くても身体を拭くときにお湯を使えるし――って、さっき水で拭いちゃったよ!!
何でそのとき気付かなかった、私!!
……ま、まぁいいか。明日からはお湯を使おう……。
一人ツッコミを入れながら、アイテムボックスからお茶のセットを出してお茶を淹れる。
うん、お茶のセットは一人用のを揃えても良いかもしれないね。いわゆる、使用者特権というやつだ。
……さて。
ここまでは昼にもやっていたことだけど、次はルークの言っていた『果物からジュースを作る』に挑戦してみようかな。
普通に作れば良いじゃん? ……とも思うのだが、何せ錬金術で作れば楽だし、安定のS+級になるからね。
手軽な労力と、美味しい味が約束されるのだ。
ちなみに果物はクレントスでおやつ用のリンゴを買っていたので、今回はリンゴジュースを作ろうと思う。
「というわけで、れんきーんっ!」
バチッ……という音と共に、瓶の中にはリンゴジュースっぽいものが出来あがる。
「そして、かんてーっ!」
──────────────────
【リンゴジュース(S+級)】
リンゴの果汁
※追加効果:美味(小)
──────────────────
……。
うん、ちゃんと出来たぞ。
飲んでみる。
「うん、美味しい」
……うん、美味しいぞ。
……。
こう言ってはなんだけど、もう少し何かあると思ったんだけど……。
普通すぎて、他に言うことがないや。解散。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
はい、集合。
さて、次のお題は魔石である。
アイーシャさんからもらった杖に嵌められた、『空箱の魔石(小)』。
これは――
──────────────────
【空箱の魔石(小)】
重量を15%軽減する
──────────────────
――という代物だ。
エミリアさんの話によると、これの相場は金貨10枚くらい。
私の元の世界のお給料でいえば、2か月分くらいの高価な代物だ。
もしこれを作れるとなったら、自分たちで使うも良し、売っても良し……になるんじゃないかな?
というわけで早速、ユニークスキル『創造才覚<錬金術>』で素材を確認ッ!!
──────────────────
【『空箱の魔石(小)』の作成に必要なアイテム】
・無垢の魔石×1
・空箱の力×1
──────────────────
……大体そのまんまだし、ヒントも何も無い……ッ!!
解散。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
はい、集合。
逆に考えるんだ。『空箱の魔石(小)』があるのなら『空箱の魔石(中)』や『空箱の魔石(大)』もあるのだろう……と!!
もしかしたら、『空箱の魔石(小)』を素材に『空箱の魔石(中)』が作れるかもしれないし……。
というわけで早速、杖からひとつ外してアイテムボックスに入れてみる。
そして……ユニークスキル『創造才覚<錬金術>』ッ!!
──────────────────
【『空箱の魔石(小)』による作成可能なアイテム】
・空箱の魔石(中)(材料が足りません)
──────────────────
おお、小は中の素材になる! ……ことは分かったのだが、他の素材が何か足りない。
もしかして2つ要るのかな? と思い、杖からもうひとつ外してアイテムボックスに入れてみる。
──────────────────
【『空箱の魔石(小)』による作成可能なアイテム】
・空箱の魔石(中)(材料が足りません)
──────────────────
状況は変わらず。
もしかして3つなら……? 杖からもうひとつ外してアイテムボックスに入れてみる。
──────────────────
【『空箱の魔石(小)』による作成可能なアイテム】
・空箱の魔石(中)
──────────────────
……!!
『空箱の魔石(中)』を作るには『空箱の魔石(小)』が3つあればいける……!?
じゃ、早速――……と思ったけど、何か嫌な感じがしたので手を止める。
『空箱の魔石(中)』の効果が、もし軽減する重量が45%未満だとすれば……杖が今よりも重くなってしまう。
せっかく作っても今より不自由になるのは嫌だし、効果は先に押さえておきたいところだ。
この辺りはエミリアさんが詳しそうだから、明日にでも聞いてみようかな。
もし45%以上の効果になるなら、魔石スロットが1個で済むようになるし、『空箱の魔石(中)』にするのも良いだろう。
それにしても――
……作りたいものが想像ベースで存在するのに、且つ素材の持ち合わせがあるのに、それでもなお何回も試行しなきゃいけないのは面倒かもしれない。
今回も『空箱の魔石(中)』を作るには『空箱の魔石(小)』が3つ必要なことは分かったけど、それ以外に必要なものがあれば総当たりで確認しないといけないわけだし……。
『創造才覚<錬金術>』は『実際に作るものを見る』か『素材を全部持っている』かしないといけないから、想像して何かを作るのには不向きなんだよね。
これとは逆の、想像から入れるスキルがあれば良いのに――
……あ、そうだ。
現時点で、正体不明のユニークスキルがまだあったっけ?
『英知接続』と『理想補正<錬金術>』。
ちなみに鑑定スキルで復習すると、こんな感じのユニークスキルだ。
──────────────────
【英知接続】
不明瞭な情報を明瞭にする
──────────────────
【理想補正<錬金術>】
イメージを理想的に再現する
──────────────────
今回の場合は、何かを『想像するところ』から始められたら良いな――
……ということなんだけど、『理想補正<錬金術>』は違うっぽいかな?
こっちは何となく、『実際に作るとき』に補正を掛けてくれる……みたいな感じがする。
どちらかといえば『英知接続』の方が、今求めているものに近いと思うんだけど――
……意識を傾けても、何も出てこない。
うーん、どうしたものか。
私は5分ほど考えて、ひとつの考えに辿り着いた。
『収納』と『工程省略<錬金術>』をリンクさせて錬金術の全工程を省略しているように、別のスキルとリンクさせてみるのはどうだろう。
例えば今回の場合だと『空箱の魔石(中)を作りたいなー』という想像を『英知接続』に流して、そこから『創造才覚<錬金術>』にリンクさせる……みたいな。
つまり、『実際に作るものを見る』という条件を『英知接続』で代替させる感じだ。
漠然とした想像……つまり『不明瞭な情報』が『明瞭』になって、その『明瞭になった情報』を元に『錬金術』で具現化させる。
おお、案外ありそうじゃない!? よし、早速やってみよー。
――えぇっと、
『空箱の魔石(中)を作りたいなー』
からの、『英知接続』――
からの、『創造才覚<錬金術>』――
――――
――――――――
――――――――――――ッ!!?
「痛ッ!」
突然、頭が痛くなった。
そしてその後――
──────────────────
【『空箱の魔石(中)』の作成に必要なアイテム】
・空箱の魔石(小)×3
──────────────────
……頭の中に、欲しい情報が現れた。
「おお、いけるんだ……! 『英知接続』……すごいっ!!」
これは、今までの不満を解決する神スキルだ。
……いや、最初から持ってはいたんだけど、鑑定ではそこまで教えてくれなかったからね。
これを使いこなせば、オリジナルアイテムやオリジナル神器なんかも作れるんじゃないかな!?
――ズキン。
……いや、うん。
それにしても、この頭痛は……何だろう?
どう考えても『英知接続』を使った影響っぽいけど、もしかしてこのスキルは……身体に負荷が掛かる、とか?
いわゆる多用するのが難しいスキルってやつ……?
……それにしても、何だか一気に疲れちゃったなぁ。
……よし、今日はもう寝ることにしよう。
それじゃまた明日。おやすみなさーい。
あー、うん。頭が痛いー……。