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「ここ……?」
俺……、トラゾーは、マオさんが書いてくれた住所付近へとたどり着いた。
「長旅お疲れ様です!お客様。」
「うわぁぁぁッ?!」
後ろに勢いよく振り向くと、マオさんが立っていた。
「ま、マオさんか……、ビビった……」
「wwwすみませんwでも、夜なんで、シィーですよ?」
誰のせいだよ、と思いながらもこの人の気配の消し方はプロだな、と思った。
「中にお入りください。」
「?中……?あ、あれ?」
またまた後ろを振り向くと、カフェのような、小さな建物があった。
さっきまで、こんなところに建物なんて無かったよな……?
「?入らないんですか?」
「あ、あぁ、今行く。」
カラン カラン
可愛らしい鐘の音が響く。
「はぁ……、」
思わず、感嘆をもらす。レトロな雰囲気な喫茶店のような場所で、アロマのようないい匂いがする。いつもここに居たいと思える場所だ。
「どうぞ、席にお掛けください。準備がございますので。暫くそこで待っていてください」
「あ、ありがとうございます。」
「お荷物はそこの下の黒いボックスを使ってください」
それでは、と言いながら店の奥の方へと消えていく。
あの人、営業上手だな。顔もいいし。仕事速いし。
まるで……、クロノアさん、みたいな……
「まあ、なんとなく雰囲気は似てるもんな。イケメンだし。 」
【誰か】になりたい……、そんなありきたりな意味でここに来た。
でも、俺は、トラゾーにはもうなりたくない。……、凡人のような、自分が一番嫌いな奴には。
グッ と唇を噛む。
ちょうどその時、
「おまたせしました。どうぞ。」
綺麗に透き通った金色の飲み物を持ってきた。それとともに甘く爽やかな香りが鼻をくすぐる。
「これは……?」
「カモミールティーです。美味しいですよ。どうぞ召し上がってください」
「いただきます……」
一口飲むと、スッキリした甘さが口の中いっぱいに広がった。
「ッ!美味しいです!!」
「そうですか。ありがとうございます」
カモミールティーにも負けない、爽やかな笑顔を見せ、嬉しそうに顔をほころばせた。
カモミールティーより、貴方の笑顔の方が百倍爽やかですよ、といつか誰かに言ってみたいものだ。
「それで?マオさん。」
本題に入ろうとしたが、マオさんはボーっとこちらをみている。
「?マオさん?」
「あッ!?、いや、あぁ、なんでもないよ!それで、本題だね」
珍しく慌てて、急に喋りだしたと思えば、早口になる。
先程の敬語はどこにいったのだろうか、と思いながらも俺は気になったことを言った。
「あの、【誰か】になりたくて、俺は、ここまで来たんだ。今さら冗談とか通じないですからね?」
「そんな!俺が嘘を付くとでも?」
なんというか…、この人、黒幕感あるんだよなぁ……最後の最後で裏切りそうな……、
「ふふっ、まだ警戒は解けてない、か……」
「なッ…、なにを、企んでるんですか…、」
「ぼくはね……、」
暫くの長い間。
なんだ!?怖いッ!俺、もしかして、殺されるとかある?
「なぁーんて!うっそー」
「……、はぁ??さっきので何かあるパターンだったでしょ!お決まりの!!」
「wwごめん、話がズレたね」
「ズレ過ぎだよ……」
この人、何なんだ?
俺を転がそうとしてるのか?
「さて、まずは、色々教えなくちゃならないね」
そうだ。
俺はまだ何も知らない。そもそも、【誰か】になる、とはどういうことなのかもよく分かってない。
「まず、お客様には、なりたい人、の過去などの情報をあさりだして貰います。」
「あさりだす……?」
「うーん?詳しく言うと……、言いづらいなぁ……因みに、貴方のなりたい人って誰?」
「あ、えっと、存在しない人、ってダメなんですか?」
できることなら、俺はリアム看守になってみたい。だが、
「う、すみません……、想像の人等の、実在しない人は無理なんです……」
「そう、ですか……じゃあ……、」
なりたい人、か……。
とりあえず、ぺいんとの名前でも出しとくか。
「天乃 絵斗……、ぺいんと です。」
一瞬、驚いたような顔を、見せた。俺、変なこと言ったか?が、すぐにいつもの営業スタイルに戻り
「では、ここではぺいんとさんと思ってください。貴方にはぺいんとさんの過去に行ってもらいます」
「過去に行く……、そんなこと、できるんですか!?」
「やだな〜。夢で君に干渉したり、何もないところから家を出したりできるんだよ?過去に行かせることなんて、朝飯前超えて、寝る時前だよ」
「なんだよ…、寝る時前、って……」
でも、確かにそうだ。
現に、夢でマオさんに会った。この人はただの人じゃないことは分かる。いままで、非日常的なことが起こりすぎて、慣れてしまった自分が怖い。
「マオさんって……、何者?」
悲しそうな、驚いたような表情を一瞬だけ見せたが、元の明るい声に戻り、
「それは、内緒です☆とりあえず、私が夢で貴方を干渉したように、貴方はぺいんとの過去に飛んで、干渉してもらいます。 」
「干渉……」
「そうです。そして、考え直すんです。この人で本当にいいのか。【誰か】になれるのは、一生に一回限りですからね」
「あの、」
手を挙げるとマオさんは「はい、トラゾー君」と生徒と先生のようなくだらない会話をする
「別に、過去を見ずにその人になることは可能ですか?」
「うーん。できなくもなくもないけど……」
今度は鋭い目でこちらを見る。まるで、最後の忠告だよ、とでもいうように。
「意外とその人はヤバい人だったり、辛いことがあったり……、人間、どんなことがあったのか、分かんないからね。何しろ、それから、その人として生きていくんだから」
「その人として……、」
ゾクッ とした。確かに、過去は一応見ておいた方がいいな。
「そして、その過去が……、その人の人格で生きていきたかったのなら、本契約です。」
「本契約……」
「【トラゾー】の記憶は消え、別のパラレルワールドが生まれます。」
「そのパラレルワールドで、ぺいんと、として生きていく、と。」
「察しがいいことですね。そういうことです。」
「じゃあ、この……、この世界線のおれは?」
意味が通じてるだろうか…、?だが、マオさんも察しがよく、
「その場合、貴方は皆の記憶から消える、か、もしくは失踪した、と言われます。どちらが良いのかはお客様次第です」
「皆の記憶から、消える……、」
「はい。けれど、この世界線には貴方は関係ないことです」
残酷な、けれど、事実を突きつける。
「説明が長くなってしまいましたね。さて、貴方は、誰になりたい、誰の過去をみたいですか?」
「俺、は……、」
息が詰まる。
けれど、まずは……、
息を吸って、【あの人】の名前を口にした。
「ッ……、かしこまりました。」