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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
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取材を受けるのは、初めてという訳ではない。

だが、慣れているという程ではないので、私は少し緊張していた。


「え、えっと……きょ、今日はよろしくお願いします」


しかしながら、私の緊張は結果的にすぐ和らぐことになった。

目の前にいる記者が、私なんかよりも明らかに緊張していたからだ。

その様子に、私は苦笑いを浮かべてしまう。ただ、すぐに意識を切り替える。


「こちらこそよろしくお願いします。えっと、取材を申し出てきた方は男性だったと思いますが……」「あ、その、バーキントンさんは、体調不良を起こしてしまいまして……代わりに私が、取材に来た次第であります」

「体調不良?」

「こ、高齢ですから倒れてしまったみたいで……あ、申し訳ありません。これは、余計なことでしたね……」

「え、ええ……」


取材したいと言ってきた人が倒れたという事実に、私はとても驚いていた。

それは、本当に大丈夫なのだろうか。なんだか心配になってくる。

もっとも、それは取材をするなら私に言うべきではなかったことであるだろう。先程から彼女は少々迂闊だ。もしかして、新人さんなのだろうか。


「自己紹介がまだでしたね。私は、オルマナ・ヘレイナと申します」

「新人さんなのかしら?」

「あ、はい……実は、そうなんです。先月入社したばかりで。本来なら取材にあたることはないんですが、今日は少し事情があったので……」

「そ、そうなのね……」


オルマナの説明によって、彼女の態度とどうしてこんな所に立たされているのかを理解した。

上司が倒れて、その穴を埋めるためにここに来させられた。それは、なんとも同情できる状況である。

普通に考えれば、新人である彼女は先輩に同行させるなどするべきなのではないだろうか。彼女の様子に、私はそんなことを思っていた。


もちろん、取材対象である私がそんな事情を考慮する必要はないのだが、まだ右も左もわかっていない少女を虐める趣味は私にはない。

ここは、寛大な心を持つとしよう。もっとも、彼女の所属する会社は少々怪しい気もするので、今後付き合うのは控えるが。


「そ、それでですね。早速お話を聞かせていただきたいのですが……」

「ええ、構わないわよ。えっと、あなたはバーキントンさんの代理なのよね? ということは、彼が取材したいと言っていたことを引き継いでいるという認識でいいのかしら?」

「あ、はい。そうなんです。実は、アルシエラさんの半生を聞きたくて……」

「私の半生ね……何から聞きたいのかしら?」

「えっと、アルシエラさんが……貴族の令嬢だった時のことから」


オルマナの言葉に、私は少しだけ笑ってしまった。

私の半生、それは自分で言うのもなんだが、中々に壮絶なものである。それを話すのには、それなりに時間がかかりそうだ。

そんなことを思いながら、私はため息をついた。長い話になるため、力を溜める必要があったのだ。

そして私は話し始める。私の数奇な半生のことを。




◇◇◇




私は、エルシエット伯爵家の長女として生まれた。

しかし私の誕生は、それ程祝福された訳ではなかったようだ。

政略結婚をした父と母の仲は、最悪であった。念のため後継ぎになる子供は作ったが、息子が欲しかった父にとって私は疎ましい存在であったようだ。


母の方は、私に真っ当に愛情を注いでくれていたように思う。

ただ、彼女が時折見せる不快そうな顔は、今でも覚えている。きっと私のどこかに父親の陰を感じていたのだろう。今となっては、母のそんな気持ちがよくわかる。


私が七歳になった時に、母は亡くなった。

流行り病にかかって、そのまま亡くなってしまったのである。元々体が弱かったらしいが、そのあまりにも呆気ない死に、私は中々実感を得ることができなかった。


そんな私に対して、父は追い打ちのように再婚の報告をしてきた。

彼が連れてきたのは、母とは違うタイプの女性であった。それが恐らく、父の本来の好みであったのだろう。二人は恋愛関係にあったらしい。


「アルシエラ、彼女が私の新しい妻だ。そしてその隣にいるのが、お前の妹なのだ」

「妹? どういうことですか?」

「イフェリアは、私の子だ。イエネアと私の間にできた大切な子供なのだよ」


母が亡くなってすぐであるというのに、父と女性の間には子供がいた。

それはつまり、不義の子である。父は浮気して別の女性との間に子供を作り、その相手を妻と娘にしたのだ。


「あの女が亡くなったのは、本当に幸運だったよ。はっはっはっ、これでやっと私は幸せになることができるのだ」

「そ、そんな馬鹿なことを……」

「いいか。お前はこの家に置いておいてやる。しかし、私に逆らうことは許さんぞ。逆らったら追い出してやる。お前のような力のない子供が追い出されたらどうなるかわかるだろうな?」

「そ、それは……」


再婚してから、父は私に対して横暴に振る舞うようになった。

それはきっと、私を母が亡くなったからそう感じるようになったのだろう。きっと母は、今までずっと父から私を守ってくれていたのだ。


「ふん、あんな汚らわしい女の子供なんて、本来であれば追い出してやりたい所ですが……この子にも、まだまだ利用できる所がありますものね?」

「ああ、そうだとも。こんな奴でもエルシエット伯爵家の血を継いでいる。利用しない手はないだろう?」

「素晴らしい考えですね。傀儡として、この子はいつまでも利用してやりましょう」


継母であるイエネアは、父と同じように悪辣な人間であった。

似たもの夫婦に囲まれて、私はこれからの未来が暗いということを悟った。

しかしながら、その時はそれでもそこにいるしかないと思っていた。まだ非力だった私は、世界に羽ばたいていける勇気など持ち合わせていなかったのだ。




◇◇◇




「愚かな愚かなお姉様、ああ、あなたは一体どうしてこんな所にいるのでしょうか?」

「……」


両親に愛されて育ってきた妹のイフェリアは、両親にそっくりな少女へと育っていった。

彼女は、父親のように横暴であり、母親のようにわがままだった。二人の短所を受け継いだ妹は、意気揚々と私を罵倒する。


「あなたみたいな人が、この伯爵家に留まっているなんて、不快で仕方ないですわ。さっさと出て行ってくれればいいのに、非力なお姉様は一人で何もできないから、ここに留まることしかできないのでしょうねぇ」

「……」


イフェリアの話に付き合うのは億劫だった。

彼女は、両親と深く繋がっている。そんな彼女に逆らえば、両親から罰を与えられるのだ。

だから私にとって、妹と会話をするメリットはない。だが、無視をしたらしたでイフェリアは怒るので、何かを返さなければならないのだ。


「……確かに私は、非力なのかもしれないわね」

「疑問形ですか? それなら、私は言い切って差し上げますよ。お姉様は、非力で愚鈍です」

「……そうね」


イフェリアの言葉に、私はゆっくりと頷いた。

それを見ながら、彼女は不服そうな表情をする。それもいつも通りのことだ。彼女は私がどういう反応をしても、納得してくれない。


「従順なお姉様は、つまらないですね? もっと何か私に言いたいことがあるんじゃないですか? 言いたいことを言ってくださいよ。今なら怒りませんから」

「……」


要するにイフェリアは、私に反発したいのだろう。自分は私とは違うという意識が、彼女の根底にはある気がする。

そう考える理由は、お父様とお母様がずっと言ってきたからだ。あの二人は、何かにつけて私とイフェリアを比較して、彼女を褒め称えていたのである。


「……別に、あなたに言いたいことなんてそれ程ないわよ」

「そうなんですか? でも、ため込んでいることがあるんじゃないですか?」

「ないと言っているでしょう」


ここで不満を述べたら、イフェリアはそれを両親に伝えて、私に罰を与えるだろう。

それを避けるために、私は質問をはぐらかす。そうするのが一番いいことだということは、今までの経験からわかっている。


「ああ、本当につまらない! お姉様は、私に従っていればいいというのに」

「……従っているわ。ただ本当に、あなたに言いたいことがある訳ではないということよ」

「別に罰を与えるのに嘘をついてはいけないという決まりはないんですよ? 結局あなたは、罰を受けるというのに……」

「……」


忌々しそうに私を見つめるイフェリアを、私は無視する。

あんなことを言っているが、彼女はこういう時には両親に何も言わない。

きっとそれが、彼女なりのルールであるのだろう。私はとにかく、そんな彼女がルールに則るような言動を心掛けるしかないのである。

そちらから縁を切ったのですから、今更頼らないでください。

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