「……俺はな、絶対に、お前らに痛い目を見てほしかったからサッカー部全員強制参加にしたんだよ‼」
部長である山路が振り返り際にそう言うと、部員全員が戸惑った。
「はあ?」
「マスター、海、お前らは今まで何回告白された?」
「俺は、7かな」
「俺は8」
「じゃあ、ラブレターは」
「俺は5」
「7」
「……」
2人がそう言うと、山路の肩が震え出した。
「お前らなああ……俺は今まで一度も告白されたことないし、ラブレターも貰ったことないさ‼なのに良いよな!お前らは顔が良くて、部活で少しは決まるかなと思ってサッカー部に入ったのに、女子は全員お前らに取られるし!」
「いや、あの、お前、別にモテないわけじゃ……」
「じゃあなんで俺は今まで告白されたことないんだよ‼いいか?俺が持てない理由は環境だ‼この環境が生けないんだ‼日秀学園にはお前ら二人と、松村がいたし、だから小学校でも告白されたことないんだよ‼でもまだ俺は4位だった。性格と、そこまで悪くない顔で上り詰めたんだよ‼そしたらなんだ⁉中学に入って、尚と景音に女を全員とられたんだよ!そこで俺の順位は一気に下がったさ……」
山路には何か醜形恐怖症のようなものを患っている幽霊でも憑いているのだろうか。
「……それ、直接女子に聞けばいいだろ。俺らより女子と話す時間長いんだからさ」
「ああ。だからあのいけ好かない女に聞いたさ」
「いや誰だよ」
流が呆れたように聞くと山路は俯いた顔を上げた。
「俺のライバルの、秋原雪だよ!アイツに、『なんで俺はモテないんだろうな?』って聞いたら、アイツ、『あ~、あれだろ、サッカー部にイケメンが多すぎるんだよ』って言ったんだ!」
山路は頬を紅潮させて
「うん……?」
「アイツの言ったイケメンっていうのは、お前らの事だろうが‼」
「いやいや、俺たちの後輩だってイケメンな奴いるだろ。そもそもイケメンでもモテない奴なんてザラに居るんだから、お前みたいにな」
「アイツだろ?ほら、あんまり笑わないやつ。か、か……」
「加織皐月(かおるさつき)」
「んえ?そいつ男?」
「ああ。男だよ。小学校の時に、英才小学校から、米秀小学校に転校してきたらしいんだ」
「へえ~。で、今日はそいつ、どこに居るんだ?」
「いるよ。あそこに」
海が指さした方向には、トイレの前で、ショットガンを手入れする彼の様子だった。
「顔は悪くないんだが、なぜかあまりモテないやつ。話が合うんじゃないか?」
「いやー、でも喋ったことないし」
「呼んだか?」
山路がはぐらかそうとした時、彼の後ろに皐月が居た。
「皐月。お前の話してたんだ」
「俺の話を?」
「お前、誰かに告白されたことは?」
「無い」
「ラブレターは?」
「無い」
皐月が淡々と言うと、山路の顔がどんどん晴れていく。
「やっと見つけたー」
山路は目尻が熱くなったのを感じると、皐月に抱き着いて涙を拭き取った。
「なあ、皐月、お前、モテたいとか、考えたことあるか?」
「別に。俺、そんなの興味ないし」
「んえ⁉」
山路は打って変わって驚いた顔を薫に向けた。
「だってもし、本当にモテたいって思ってたら、少しは努力するだろ、いやでも笑顔でいようとしたりな」
「皐月は全然笑わないしなあ」
「俺、そんな笑わないっけ?」
「笑ってないよ、みんな笑ってる時も、一人だけ笑わないし」
「……そうかな。皆笑うような面白い場面とかあったっけ?」
「おいおい……あるだろ?忘れたのか」
「お前らなあ……俺忘れてるだろ‼」
山路は自分の顔を指さして言った。
山路の目尻には涙が溜まっていた。
「あ、わりい。忘れてた」
「なんで俺ばっかりこんな目に……」
「……今思ったんだけど、秋原は、お前がモテないってこと、否定しなかったんだな」
流が少し笑って腕を組んだ。
「普通はそんなことないとか言うだろ。山路、お前が怒ってるのって、半分秋原のせいだろ」
「あ、確かに」
「何の話をしてるんだ?」
皐月が聞こえるか、聞こえないかくらいの微妙な声で呟いた。
「……俺らの事言う前に、お前の事をモテないって言った秋原こそ、先に潰すべきだろ」
流がにやにやしながら言うと、山路は、それに答えるように、怒りに燃えたような顔で、自分の持つハンドガンを睨んだ。
「あの、クソ女……絶対に許さねえ」
「……こいつ馬鹿だな」
「何?先に美術部を潰すの?」
「おい、流」
海が流を窘めようと、名前を言うと、流は鼻で笑った。
「ハッ、これであの生意気な女が少しは黙るだろ」
皐月と海は、少し引き気味に、狂気じみた笑顔を張り付けた流を見つめていた。
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