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「5日に一回は必ずな。これは約束」
ベッドに腰掛けた桐人が稲葉に向かって言う。
それについて話す時の桐人はいつも同じ表情をしていると稲葉は思う。
…何に対する態度も桐人は同じだ。
親にも、妹にも、自分にもその辺の通行人にも、桐人は自分以上の関心を持っていない。
「だったらお前、たまには代われよ」
「ん?代わるって…」
桐人が稲葉の顔を見上げる。
「やだよ、そんなの」
稲葉は鏡の前で帽子を被ると、暫しそれを眺めた後で机に置きっぱなしだったスマホを手に持ち、部屋から出る。
玄関から外に出ると強い風が一瞬吹き、それでも外は晴れ上がっていて海に入るには絶好の天気だった。稲葉は部員と待ち合わせている駅へと歩いて向かう。
待ち合わせの場所には既に数人の部員が集まっていて、その中の田中という男の従兄弟と思える、社会人風の男も既に混じっていた。
「稲葉」
部員の一人に声を掛けられ、その中にいた中本樹も稲葉の方へと視線を向ける。
「途中で何か買って行くって。後一人、来たら出発するから」
「うん」
「お前水着持って来てる?」
「履いて来た」
「ふーん。どんなやつ?」
「お前らが想像してるようなのだよ」
「ふーん?」
周りの生徒達が暗黙の了解的にくすくすと笑い、樹もそれに加わって少しだけ笑っている。稲葉は、そっちの方を見ると周りに合わせて一瞬微笑む。
最後の一人が来たのを機に、車へと乗り込む
海に着き、ぬかるむ砂場に足を沈ませながら田中の従兄弟が決めた場所に皆が荷物を置き、誰かが持って来たレジャーシートをバサバサと広げている。風が吹くたびにそれが砂と共に舞い上がり、稲葉が持って来た荷物をそこへ置き、周りの部員もそれに合わせてタオルや荷物を置いて行く。
「結構人居るなー」
日が登り切った時間では家族連れやカップル、それからどこからともなく来たのか学生達のようなグループも既に芋洗いの如くごった返している。
「俺入ってくる」
誰かがそう言うと走り出し、海の中へと躊躇わずに足を進めて行った。飛び跳ねる水にも構わずに数歩歩いた後で、笑顔でこちらを振り返る。それを見て数人が、服を脱ぐ前から海の方向へと走り出す。
稲葉と、樹はあっという間に取り残された場所から部員達が浅瀬で遊んでいるのを眺めていた。
「暑いなー」
田中の従兄弟が呟く。
樹はそっちの方向を見て「暑いですね」と返す。
稲葉もレジャーシートの上に立ち、服を脱ぎ始める。
「お前も泳ぎに行くの?」
樹が稲葉の方を振り返り、笑顔で見上げている。
「あーやっぱり、海に入った方がいいわ。俺も脱ご」
戻って来た部員がそう言い、稲葉の隣で服を脱ぎ始める。
「じゃー俺も」
樹もそれにつられて立ち上がり、着ていたTシャツを脱ぎ始める。稲葉は全て脱ぎ終え、衣服を持って来た袋に詰めながら、樹が着替えるのをじっと見ている。
脱ぎ終えた樹と、稲葉の目が合う。樹はジロジロと稲葉の方を見た後で海の方へ向かって歩いて行く。
暫く海の中でじゃれ合いながら泳ぎ回った後、誰かが「ナンパしに行こう」と言い出し、数人で連れ立って海岸を歩いて行った。
「お前は行かないの」
後に残された稲葉は、砂浜に座り込んでいる樹に向かって聞く。樹は応えずに、後ろを振り返るが、つい先程までレジャーシートの上で寝そべっていた田中の従兄弟の姿が見えなくなっている。
「あれ、居ないじゃん」
「本当だ」
「俺あっちで待ってるかな。荷物置きっぱなしだし」樹は立ち上がると、稲葉に向かって笑顔を向けて、返事を待たずに歩き出す。
背中に砂を付けたまま、それにも構わずに歩いて行く樹の背中を稲葉は見つめている。
「…あれ」
水を飲んでいるところに、再び稲葉が現れ、無言でレジャーシートの上に腰を下ろす。
しばし、気まずい沈黙がつづく…
言わずもがな、あの保健室の事を樹が気にかけているだろう空気は伝わってくる。
「なんで行かないの?それ、目的で来たんだと思ってた。」
稲葉は遠目にかろうじて分かる部員の姿を、目を細めて見ている。
「あー。」
「そうだ。好きなやつ居るんだっけ」
「別にそういうわけじゃないけど、…俺あいつらほど遊んでないから」
そう言って樹は自分の足を砂に潜らせる。
稲葉はそれを暫し見つめている。稲葉の視線に気付いたのか、樹は所在なく足の指を動かしている。
「なんでここに来たかっていうとさ、あの従兄弟がナンパの達人だっていう話だったんだよね」
「そうなの?」稲葉が樹の方を見る。
「そう。それで俺らもついでに声掛けたんだって。
従兄弟はさ引っかかりそうなのと、そうでないのを瞬時に見分けるらしいよ。技術より、まず目を養えとか言われたんだって」
ははは…と稲葉が笑い、樹の隣へと座る。
ギョッとしたように樹が隣にいる稲葉のことを見る。
稲葉はというと、平気な顔で砂を手に取ると、樹の足にぱらぱらとそれをかけている。
「お前はさあ、ここで砂遊びしてる方が楽しいんだ」
「んなことねーよ。」
「そう?」
稲葉は樹の足元の方に膝を付くと、「ちょっとこっち」と言って樹の手を取る。
訝しみながら樹は立ち上がると、稲葉に促されて砂の上に座り込む。
たくさんの人が行き交う砂浜で陽に晒されたまま、男二人で向かい合って座っていると、改めておかしな事を想像する余地も無さそうには思えるが、それでも樹の方は先日の事を思い出すのかなんとなく目を逸らす。
稲葉は樹の反応を知ってか知らずか、樹の両足を掴んで揃えると、それを砂の上へと並べて置く。
「何すんだよ。」
「暇だからさ、海っぽいことしようよ」
「…へ。」
稲葉は返事を待たずに、手で掬い上げた砂を樹の体へと掛けていく。
それを見て、樹は笑う。後ろに手を付いたままで、暖かい砂の感触に足がどんどん覆われて行くのをじっと見守って居る。
「俺もした事あるよ。」
「お前が?」
稲葉は頷く。
「ナンパする時はさ、相手の子にすっごく優しくするんだ。会話しながらもどうやってこいつにチンコ入れようって考えてるからさ…」
「うわ、お前最低」
「そうだよ。だから、相手の子からしたら、会った時がピークで、後は評価下がりっぱなしだから」
樹は笑う。稲葉も、ニヤニヤと笑いながら徐々に砂を盛って行く。
樹の水着辺りに差し掛かった頃、稲葉が樹の足の間に手を滑り込ませる。
「この間さ、すごいよかったよ。」
「…」
「…中本」
樹が稲葉の顔を見上げる。そういった瞬間、樹が顔を真っ赤にする。
「キスしてもいい?」
樹は稲葉の方を見るが、稲葉は一見真面目な顔で砂を掛けているようにしか見えない。
「冗談言ってる?」
「うん」
樹はため息を吐く。
「でもお前今、俺から逃げられないよ。」
稲葉は、樹の水着の隙間に手を滑り込ませていく。
「何言ってんの…」
樹は、少し足先に力を入れるだけで、ぱらぱらと砂が崩れ落ちて行くのを知っている。
周りを見回すが、すぐ隣で家族連れの、残された親がバーベキューの手入れを忙しくしていて、会話も筒抜けになっているほど近くに居る。
「あけみ、どこ行ったのかしら」
「どこって、すぐそこにいるだろ」
隣に居る家族の母親が顔を上げて、海の方を見る。
それを背中越しに聞きながら、樹は足を伸ばして座り込んで居る。
視線を戻すと、稲葉がすぐ目の前で真剣な顔をして没頭しているのが見える。
「反応して来た」
稲葉はそう言い、ニヤっと笑って樹の顔を見る。
樹も、自分が今どうなっているのか分かる。荷物や自分の体の陰になってはいるが、徐々に勃起し始めたものが砂の間から少し目立ち始めている。
「…こういうのが、好きなの?」
樹は稲葉に向かって言う。
稲葉の指が、自分のに絡み付いてゆっくり、目立たないように動かしているのが分かる。
「うん」
「…シラカワと」
樹はそう名前を出した後で逡巡したあと、口を噤む。
「…知りたい?」
樹は稲葉の顔を見上げる。既に硬くなった樹のペ◯スを、稲葉は体を寄りかかるようにしながらしごき始めている。
「桐人はただの雄猿だよ。あいつは俺の身体無しじゃ生きて行けない奴だったんだ」
「え…」樹は、稲葉の影が自分の身体に降りているのを眺める。
「ここで行ってみて…中本」
「やだよ」
「みんなといる場所汚すの嫌だ?」
「普通に、いやに決まってんだろ」
「でも続けてたら行くだろ?」
「…いや…、
そんな、やばい奴だったの、その…白川って奴」
「ん…」
「ぱぱー」
隣の家族連れの子供が、走りながら駆け寄って来る。すぐ目の前で小さな女の子が立ち止まり、浮き輪を持ったままでじいっと樹と稲葉の二人のことを見つめている。
稲葉は、女の子に向かって笑顔を返すと、手元で掴んでいた樹のモノにぎゅっと力を込める。
「見てるよ。ほら。かわいい」
稲葉が樹に向かって笑顔を向ける。
それからじいっと見つめた後で手を離す。
樹は恨めしそうな顔で稲葉を睨む。
その時、後ろから「あー、ごめんな」と声が掛けられる。振り向いて見ると従兄弟が帰って来たようで、手に食べ物を幾つか抱え込んでいるのが見える。
稲葉は自然な様子で樹の足に砂を掛けると、立ち上がって「皆でナンパに行っちゃってえ」と声を出す。