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通話がつながるまでの一秒が、やけに長く感じた。マイッキーは画面を見つめたまま、息を整える。
「……もしもし」
『あ、やっと出た〜』
その声に、眉がわずかに動く。
さっきまでの楽しそうな空気は、もうない。
「今?」
『今だよ、待ってた』
マイッキーは視線を落とす。
部屋は静かで、さっきまで鳴っていた笑い声が嘘みたいだ。
「さっきは無理だった」
『一緒にいた?』
一拍。
答える前に、喉が小さく鳴る。
「……まあ」
『また?』
「違うって」
言い切るけど、強くはない。
相手はそれを聞き逃さない。
『声、低い』
「静かにして」
抑えた声。
誰かに聞かれないように、というより、
自分を落ち着かせるみたいに。
『ばれてない?』
「大丈夫」
即答。
でも、その速さが逆に不自然だった。
『ほんとに?』
「信じて」
短く、軽く。
いつもの誤魔化し方。
『嘘つくとき、その言い方』
「……やめて」
指先が、スマホの端を強く押す。
『会う?』
「今日は無理」
『じゃあ、いつ?』
「連絡する」
逃げ道みたいな言葉。
相手は、少しだけ笑う。
『逃げないで』
「逃げてない」
『前もそう言った』
沈黙。
マイッキーは天井を見る。
「……切るよ」
『好きだって言ったら?』
一瞬、呼吸が止まる。
「……それは」
言葉にならないまま、間が落ちる。
『またね』
「……うん」
通話が切れて、
画面が暗くなる。
マイッキーはしばらく動かず、
さっきまでの“平然”を、
もう一度作り直すみたいに、深く息を吐いた。