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「8層はクリエルテスですかね?」
「今まで気にしてなかったけど、他リージョンのパクリって知っちゃったら見え方変わるなぁ……」
「ただのドウクツのソウだと、おもってたもんな」
ポータルで移動した先に広がっていたのは大きなトンネルと岩肌。よく見ると以前に立ち寄ったクリエルテスにそっくりで、天井には光る鉱石のようなものが埋まっている。しかし、不思議な事に渦のような雲と中心に輝く星というヴェレスアンツの空は透けて見えている。
イディアゼッターによると、完全なパクリは駄目と他の神々から言われ、数少ない象徴である空だけはどこからでも見えるようにして納得してもらったらしい。
”ヴェレスアンツ人に暴動の起こし方聞かれたんだが”
「気持ちは分からないでもないけど、落ち着こうね?」
”そりゃ自分達が誇るリージョンの成り立ちがこれじゃあなぁ”
「文句がある場合は最下層に行って直接殴るといいでしょう。グレッデュセントが作ったルールなので、顔が変形するほど殴っても許されます」
”よし死ぬ気で特訓だ”
”俺も”
”アタクシも”
”小生も”
”おまえら……”
ヴェレスアンツ人の殺る気に火が点いた。そもそもが神であるグレッデュセントが挑戦者を求めているので、創造神への反逆行為であろうと喜んで迎え撃つことだろう。
「それはともかく、ここから先は直線で進めないのが多くなるわねー」
ネフテリアはヴェレスアンツ経験があるので、分かれ道も行き止まりも多いこの層の事は知っている。元となったクリエルテスも、迷路のような巨大洞窟といった造形で、住んでいるクリエルテス人でも迷う事があるのだ。
「ピアーニャ、道覚えてる?」
「いや? あまりこないからな」
「そっかー、まぁいいか。ちょうどキリもいいし。ゼッちゃん、ミューゼ~」
「はーい」
「承知しました」
この後の行動と進み方を呑気に考えているネフテリア達の後ろでは、アリエッタが真剣な顔で考え込んでいた。
(RPGみたいな世界だなーって思ってたけど、ここはもしや本当にダンジョンでは? ミューゼ達が「戦う」「進む」「次行く」って教えてくれてたのはそういう事か?)
断片的に会話を理解出来るようになっているので、大体の要点は押さえているが、それでも理解度は半分未満。そんなアリエッタが、ついにこのリージョンの特性に気が付いた様子。
(うーん、ダンジョンってことは、ミューゼ達が困る部分が分かりやすい。だいたい迷子になるか、強敵にぶつかるか、ボスがいるかだし)
前世の記憶からの勝手な想像だが、おおむね間違ってはいない。8層以降は迷う者が多い為、挑戦する者達の中でも、ここからは難易度が突然上がると評判である。
転移してきたポータルを眺めながら、アリエッタはさらに思考を巡らせる。その背後でミューゼが木を生やしている事に気づきもせずに。
(この『ポータル』ってやつの方向が分かれば迷いにくいと思うけど、入口と出口があるから、どっちがどっちか分かればいいよねぇ。そうなると方位磁針じゃ便利だけど完璧じゃないな)
「難しい顔になってるアリエッタちゃんも可愛いねー」
「ひゃわわわ……」(なんかこわい……可愛いのに)
(いや待てよ? ここ洞窟だから、壁の死角から不意打ちってのもあるのか。そういえばサイロバクラムみたいなゲームで爆発する敵に驚いて死んだ事があったなー。あっ、そーかあれならいけるかも)
アリエッタが何かを閃いた。出発前に試しておきたいので、ミューゼ達にここで休憩しようと声をかけるべく振り向くと……
「ミュー…ゼ?」(へ?)
いつの間にか小さな家が建っていた。
「アリエッター。今日はここでおやすみするわよー」
「おやすみ?」(あれ? もう夜だっけ?)
景色が変わって空の色も常に変わり、おやつも貰って空腹ではないせいで気づいていなかったが、既に夜の時間。
そもそも1日で1層から8層まで移動している時点で異常である。本来なら迷い、戦いながら進む為、慣れていても1日にせいぜい2層しか進まない。ヴェレストが強くなればさらに遅くなるのだ。
イディアゼッターの案内とピアーニャの『雲塊』による機動力、そしてアリエッタとニオの過剰な火力によって、異常な速さで突き進んでいたのだった。
「むぅ……」(ここは僕の出番だって張り切ったのにな。準備出来るからいいけど)
「あら、ちょっとご機嫌斜めなのよ? 美味しいの作ってあげるのよ」
ちょっぴり肩透かしを食らったアリエッタは、ちょっとだけ納得出来ないまま大人しく木の家に入った。
全員が入ったところで、イディアゼッターが空間を一部歪曲。家の周りを見えない壁で覆いつつ、家自体を外から見えなくした。
「これでヴェレストはシンニュウできないな」
”ずりぃ。最初から最後までずりぃ”
”俺らは交代で見張りするのに”
「ここまでもいろいろバクロしただろ。このさきもミカクニンジョウホウばかりだとおもうから、ガマンしてくれ」
”へーい”
本来ならば、ヴェレストを警戒しながら休むのがヴェレスアンツでの生活なのだが、ミューゼのような植物魔法使いと、神であるイディアゼッターのお陰で、安心して休める環境を作り出す事が出来る。それがとても羨ましいのだ。
しかもメンバーにはラスィーテ人もいる。そのパフィが調理道具と食材を持って家から出てきた。
「ちょっと火使うのよ」
家は木で出来ているので、中では火を使えない。パフィは手ごろな石を積み、持ってきた木を置き、コンコンと同じ木で軽く叩いた。するとあっさりと火が点く。
「あ、それ」
「非常用に持っててよかったのよ」
グラウレスタのアリエッタの家にあった、簡単に火を点ける事が出来る燃え尽きない木である。一度火を点けると、消すまでずっと燃え続け、永遠に再利用出来るエルツァーレマイアが娘の為に作った便利道具なのだ。
”え、なにそれ欲しい”
「駄目なのよ。私達のなのよ」
「……いちおう、わちがカンリしているからな?」
「分かってるのよ」(そういう事って話だったのよ)
”くっそ、シーカーの物かよー。どこで手に入るんだそんなもん”
「ウンがよければ、グラウレスタでてにはいるかもな」
”うへぇ……”
勿論、グラウレスタで手に入るというのは嘘である。しかも「運がよければ」と言った事で、諦めの言葉が大量に流れた。それだけグラウレスタは危険で未開拓なのだ。
すぐにパフィの調理は終わり、家の中に運び入れた。食事中は期限が悪そうに見えた(実際は考え事をしていた)アリエッタをパフィが甘やかし、恥ずかしがりながらもアリエッタは大満足。ついでにピアーニャはイディアゼッターに甘やかされていた。
「なんでだ……」
”いやぁ眼福だった”
”育児もいいもんだね”
”心がぽかぽかするんじゃあ”
「って、なんでまだライブしてるんだ?」
「あ、止めるの忘れてた」
「をい」
食事風景が配信され、ジルファートレスにいるほぼ全員が、同時に食事していたのだった。それだけこのライブは注目されている。
”あ、止める前に、もう少しだけあるだろう”
「え、なんかあったっけ?」
「何か忘れてるのよ?」
ネフテリアが何か言い忘れている事あったかと考えるが、なかなか思い出せない。
視聴者が1日の最後に求めるライブ。それは、
”寝顔配信”
”たしかに!”
”それは大切だ!”
”よっしゃ今日は徹夜だ”
「それじゃまた明日! おやすみ!」
”あ、そん──”
ヴン
ネフテリアは問答無用で光妖精に停止命令を出し、配信を切った。
「やれやれ……」
「視聴者は変態ばっかりか」
(まぁ全員美人ですからねぇ……儂にとっては孫のような存在ですが)
「ところでアリエッタちゃんは?」
「あっちで絵描いてますよ」
食事が終わると、アリエッタは紙を受け取り絵を描いていた。真っ直ぐな線を沢山描いているのが見える。
「なんかいつもとちがうな?」
「風景とか人じゃないわね」(なんかイヤ~な予感)
『………………』
アリエッタの様子を見て、何かやらかしそうと思った面々は、少しだけ考え、次の行動に移った。
「それじゃ儂は外で石を数えていますので」
「わちはロンデルであそぶユメでもみるとするか」
「現実逃避!?」
この場から逃げ出し、見なかったことにするというのが、この場で最も力のある者達の判断であった。
「だってこわいもん」
「都合よく子供化しないでくれる? 気持ちはわかるけどさ」
そんな大人達の不安など知らずに、アリエッタは絵を仕上げ、裏面に何かを描き始める。
「か…べ……。ぽー…た…る。んー、べ…れ…? ミューゼ、とり、さかな、どーんした。べれ…す?」
分からない事があったようで、身振り手振りも交えてミューゼに質問。その姿が可愛らしく、パフィが震えて鼻を押さえながら倒れている。
怖くなったピアーニャ達は既に逃避済み。イディアゼッターは家の外に、ネフテリアとピアーニャはそれぞれニオとメレイズを捕まえ、耳に魔法で栓をして一緒に転がっている。
「戦った敵さんの事を言ってるのかな? あれはヴェレストっていうの。ヴェレスト」
「べれすと」(『エネミー』みたいな感じの使い方であってるっぽい)
言葉も書いていき、満足した顔で紙を表に戻す。そしてミューゼから木を粉末にしたものと、小さな木片を貰い、それにも色を付けて紙の上に乗せ、力を行使した。
紙が淡く輝き、それを見ていたミューゼは……首を傾げながら固まった。
「……はぇ?」
(よっしゃできたー! まだすごく不便だけど、眠いし使いながらゆっくり改良だな)
アリエッタは満足し、止まったままのミューゼを寝かせ、嬉しそうに手を繋いで眠りについた。パフィもその姿を見て、幸せそうに意識を落とした。