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「……今日ね、先生とまたデートなんだー」
勤務中の受付で、見栄っ張りな真梨奈が、私へのライバル心を剥き出しにして喋る。
彼女はもう彼との関係を隠さずに、周りにも大っぴらに話すようになっていた。
あまり話を長引かせたくもなくて、「そう……」とだけ応える。
「……笹井さん? あんまり調子には乗らない方がいいわよ? あの先生は、そんなに甘くはないはずだから……」
松原女史が、奥からやんわりと釘を差す。
「ええーどうしてですか? すごく甘いですよ、政宗先生は〜」
嬉しそうに笑って言う真梨奈には、そんな忠告もまるで届かないようで、女史は、ふぅっと小さくため息を吐いた。
──クリニックを退勤する前に、洗面所へ入ると、真梨奈がいそいそとメイクを直していた。
私を見ると、鏡越しに一瞬勝ち誇ったような笑みを浮かべて、
「今のところは、私の勝ちよね?」
そう言い、嘲るかのように口の片端を吊り上げた。
「……勝ち…そうみたい、ね…」
とてもくだらなく感じる。──あんな不らちな人を相手に勝ち負けだなんて、無意味なようにしか思えなかった。
真梨奈は私の答えに満足したかのように、また鏡に向かいメイクの続きをし始めた。
そこへ松原女史が入って来て、真っ赤なルージュを唇に引く真梨奈の姿を、鏡越しに訝しそうに眺めた。