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篠原愛紀
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「そう言えば……」
しばし記憶を探るように考え込み
思い出したかの様に口を開く伊藤さん
「基本的には水川さん元気?とか、上手くやれてる?みたいな感じなのですが……」
「たまに水川さんの家庭の事とか遠回しに知りたそうな感じの時ありますね……」
「これはあくまで私の勘なのですが……」
そう前置きした上で
伊藤さんは続ける
「言葉の表面上はそんな素振りないのですが、何かその言葉の裏にネットリしたの感じるんですよね」
「女特有のネットリした感じ、あれです」
伊藤さんは
普段穏やかで
憎めない感じの
愛くるしい後輩だ
だが
たまに勘が鋭い
特に女的な勘が鋭敏だ
そして
タイプは違うものの
同じく勘の鋭いリュカ
彼も鈴木さんを指していた
そして何より私自身
確定的な証拠は無いものの
私なりの勘で
ランチメンバーの同期女子の誰かだと思っている
つまり少なくとも
三分の一の確率で鈴木さんを指している
三人もの疑念が合致している
皆一様に
鈴木さんに何かを感じている
もっとも私に関しては
三人の同期同僚の内の誰かまでしか辿り着かなかったのだが
「鈴木さんと何かあったんですか?」
伊藤さんが心配そうな表情で見つめる
「ううん、そんな事ないよ。同期だし、普通に親しい間柄だよ」
伊藤さんの手前
一応そういう事にしておいた
表向きには
現状それが事実だ
現状では
疑念はあくまで推測の域を出ない
滅多な事を言うべきではない
「……水川さん大丈夫ですか?」
「水川さんお人好しなので私心配です」
伊藤さんは良い子だ
伊藤さんはかわいい
そんな後輩にまで心配される程
私は脆く映るのだろうか
「大丈夫ですよ、本当に何もないから」
「心配してくれてありがとう」
「何かあったら言って下さいね、私力になりますから」
ゆるく催すことにした
ランチミーティング(仮)
話題がだいぶ逸れ
私事の深みにはまってしまった
とは言え今はランチタイム
本来は休憩時間
多少逸れるくらい良いだろう
巻き返し現況の共有と
今週の予定を手短に打ち合わせ
私達は
それなりにランチミーティング(仮)を終えた
***
現状
疑念は推測の域を出ない
確定的な証拠も無ければ
理由も動機も不明
それでも
夫の浮気相手は
鈴木さんの線が濃い気がしている
ここ最近
色々な事があり過ぎて
おざなりになっていた夫の浮気相手の事
こうして進捗があり
具現化されてくると
気になって仕方がない
パソコンのスクリーンを見つめ
キーボードを叩き
マウスを操る
業務時間のオフィスでの
完璧な外見を保ちつつ
頭は鈴木さんにリソースを割く
目星が付いて尚
想像が出来ない
(あの鈴木さんが……)
二人はどう知り合ったのだろう
二人はどんな関係性なんだろう
そもそも
二人の接点が全く見えない
でも……
それが解ったとして
夫の浮気相手が確定したとして
私はどうするんだ?
ただひたすらに
気になって答えを追い求めているが
その答えが明確になったならば
私は一体どうするべきなのだろう?
リュカの言っていた言葉が気になる
——彼女が瑠奈を見る眼差しとか瑠奈に対する感情とか
二人に恋愛感情はあるのだろうか
二人は肉体関係にあるのだろうか
そういえば
伊藤さんも言っていた
——水川さんの家庭の事とか知りたそうな時ありましたね
二人に恋愛感情があった事を想像してみる
だが
私の心は凪
私の心にはきっと
純也への愛情は無いのだろう
きっと
リュカの存在も大きい
いや
リュカの存在こそが大きい
こんな私を
彼が求めてくれた
彼を信じる事が出来た
私はもう
一人じゃないし
頼れる人がいる
でも
これは私事
私と純也の
二人の問題
二人の責任
リュカを頼りたくない
——瑠奈がどうしたいか、それが大事
リュカは最後にそう言っていた
私は
この問題を
自分でケジメをつけて
自分自身の醜悪な半生と
決別したい
そして
純也との関係に
ピリオドを打ちたい
それが
私の本心なんだ
ただ繰り返すだけの色彩無きモノトーンの日常
そこに自分の感情など介在しなかった
ずっと自分に蓋をして
ずっと自分に嘘をついてきた
自分が何者なのか
自分が何をしたいのか
自分の事を知ろうともせず
自分の事が解らなかった
でも
今なら解る
自分自身の事も
明確に
その為に
進むべき方向も
はっきり解る
変わるんだ
変えるんだ
もしも運命があるのなら
私の運命を
リュカと歩む未来へ