テラーノベル
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学校終わり。
部活がない日は早く、ある日は遅くなるけど俺はあの神社へと足を運んでいた。
いつものようにトラゾーは鳥居の上で空を眺めながら俺のことを待ってくれていた。
「トラゾー!」
下から呼び掛ければ音もなくふわりと地面に降り立つトラゾー。
下から見て思ったけど、服装が違う。
「いらっしゃい、クロノアさん」
「…なんか、いつもと着てる物違うね」
黒と緑の着物のような服装は白と薄い緑の軽装に変わっていた。
「…あー……うん、こっちの方が動きやすいし。あれは…その、汚れちゃったから」
「汚れた…?」
言い淀んだ話し方に眉を寄せて首を傾げる。
「!!、っあ!…ううん、クロノアさんは気にしなくていいよ。…俺の問題だから」
そういえば浮かない顔をしてる。
口元しか見えないけどいつも緩やかに上がってる口角は一文字のように閉じていた。
「……何かされたの」
「な、何もされてない!大丈夫ですって!」
不意に出た敬語。
俺だけのトラゾーを、誰か、汚そうとした?
肩を掴んでトラゾーに優しく問いかける。
「ホントに?トラゾーが傷付いてることがあるなら俺がどうにかしてあげたい」
びくりと跳ねる肩。
そしてトラゾーが俯いた時に見えた耳の付け根に付けられた赤い痕。
それを見つけた瞬間、憎悪のような苛烈な嫉妬に駆られた。
「ぃた…ッ」
肩を掴む手に力が入ってしまって小さな声にはハッとする。
「ご、めん、」
俺がトラゾーを傷つけてどうするんだ。
それに、傷を付けるのはまだ、早い。
「……んーん。クロノアさん弓道してるから手の力強いんだね」
真っさらな何も知らないトラゾーの肌に残る痕。
お前のモノなんかじゃないと誇示するかのような所有印。
「……ねぇ、トラゾーの耳のとこの痕と服装が違うのって関係あるの」
「?……、!!、み、えて…ッ⁈」
そこを隠すようにトラゾーが手で押さえた。
僅かに赤い耳と頬。
「誰」
自分でも驚くくらい冷たい声が出た。
「誰につけられたの」
人間じゃないのは明らかで。
その痕に纏われてる気が違う。
「こ、これは、その…先輩?的な、人に戯れで付けられただけで…着物もそれで汚れちゃっただけだから…ッ」
「………へぇ?」
戯れ、ね。
そう思ってるのはトラゾーだけだ。
相手はきっとそうは思っちゃいない。
「…クロノアさん…?」
戯れでこんな自分の気を纏わせたような痕付けないだろ。
自分のモノと自慢するかのように残る赤い痕なんか。
「トラゾー」
「?」
トラゾーの顔に手を添えて耳元の赤い痕に自分の顔を寄せる。
「クロノアさん…?」
ちゅっ、と忌々しい痕を消すようにそこを強く吸った。
「ひ、ゃっ⁈」
俺にその気を消すことはできない。
けど、これを見たそいつはきっと気付くはずだ。
自分の付けたものに重なるように違うものが付けられていれば。
「ちょっ…な、に…っ⁈」
俺の付けた痕を舐めて顔を離す。
お前のモノじゃなくて俺のモノだと塗り替えるようにして。
「、っ…な、ッ…」
黒い布からのぞく頬は紅潮していた。
一文字だった口はパクパクと開閉している。
「クロノアさん、何して…!」
「え?消毒?」
「しょ、消毒…?」
意味の分かってないトラゾーに、にこりと笑いかける。
「うん。まぁ、虫除けも兼ねてるけど」
「虫…⁇」
トラゾーに寄り付くモノは人間だろうとそうじゃない存在だろうと、何であっても俺にとっては害虫でしかない。
要らないモノは払い除けないと。
「とにかく、トラゾーが嫌だとか困ってることとかあったら俺が力になるからいつでも相談して欲しい。俺に頼ってくれたら嬉しいな…?」
ダメかなと困った顔を作れば優しいトラゾーは喉をぐっと鳴らして肩を引いた。
「ぅっ…、人間に頼る神様なんていないのに………でも、嬉しい。そう言ってくれるのも、俺のこと見つけてこうやって話してくれるのもクロノアさんだけだから、すごく、嬉しい」
黒い布から見え隠れする頬は微かに紅く染まって、口元も柔らかい笑みを浮かべていた。
さっきの一文字で硬い表情とは真逆の。
俺にだけ向けてくれてる笑み。
俺だけのモノ。
俺のカミサマ。
早く俺のモノにしなきゃ。
「(流れる刻も過ごす世界も違いすぎる。俺は、俺のカミサマに置いていかれてしまう。今はこうやって喜んでくれてるけどいつかは記憶の端にも残らないくらいの存在に成り果てる。忘れ去られていく、…そんなの、)」
「嫌だ…」
「?…クロノアさん、俺と話すの、ホントは嫌なの…?」
はっとして前を向くと悲しそうに声の下がったトラゾーが俺を見上げていた。
「そんなわけないでしょ。俺がトラゾーのこと嫌になるわけないじゃんか」
「でも…」
「頼ってくれないのは嫌だなって思っただけだよ。…俺じゃ役不足、かなって…」
トラゾーのことを誰よりも知ってるのは俺で、どの役目でも立場でも、渡す気はない。
「トラゾーこそ、俺じゃ、嫌…?」
そう聞くと、ぎゅっと制服を引っ張ったトラゾーが首を横に振った。
ほんの一瞬だけ見えた、ずっと変わらない綺麗な緑の目。
「そんなことない!俺も、クロノアさんがいい…ッ」
制服を掴む手に力が入って引き寄せられる。
至近距離で言われるそれは告白みたいで。
「クロノアさん以外は、なんか…嫌、だ…」
「っっ、」
小さくなる声と俯いたせいで見えるつむじ。
「トラゾー」
「…?」
「それって俺のことだけ、ってこと?」
「ぇ、…は、ぅ、うん…」
「…そっか、」
でも俺が欲しいのは、まだまだもっと重くて深くて、昏い感情。
「(まだ、程遠い。トラゾーのこれはただの信頼でしかない)」
もっと執着させて、独占したいって思わせるくらいまで堕とさないと。
その為に、俺のこの感情を知ってもらわなきゃ。
神であっても人であっても、愛情の重さは等しくあるべきだ。
いや、俺の方がきっと重くて深くて昏いドロドロの執着だ。
誰にも渡したくない。
子供の時からトラゾーは俺のモノ。
それは永劫変わらない。
「トラゾーは俺だけの神様でいてくれる?」
「クロノアさんだけの神様……ふふ、そうだね今だけ。この時間帯だけは」
「(あー、やっぱ伝わってねぇな)」
纏う全てを剥がして、俺で塗り替えてやりたい。
「(この信用も信頼も失うのはホントに惜しいけど……壊してしまえば何も関係ない)」
トラゾーに痕をつけた奴になんか渡さない。
「…うん、”今”は、ね?」
「?」
神を堕とすなんて畏れ多い?
俺はそんなことは思わない。
だって自分の好きな人が自分と同じ場所に堕ちてきてくれるんだから。
願ったり叶ったりだ。
神様は人間の願いを叶えてくれる存在だとされてる。
実際は、〇〇を頑張ります、とか〜〜をしていきますとかの報告をするのが本来の筋だ。
人間はどこまでも自分勝手だ。
他人頼りだ。
でも俺は他人なんか、ましてや神頼りなんてしない。
欲しいモノは自分で手に堕とす。
それこそ、トラゾーを俺のモノにします、という報告みたいなものだ。
「(俺だけのトラゾー)」
永遠に、死ぬまで、
俺の神様。
逃しはしないよ。
俺に見つかった可愛い可愛い、とっても可哀想なトラゾー。
コメント
7件
いいぞぉ‼拗らせろ!クソデカ感情はデカすぎてなんぼだ‼トラゾーさんは愛される才能あるね、かわいい あとぽんちゃん私フリー表紙(小説の)みたいなの書こうと思ってるんだけど書けたら使ってくれたりします?題名はみんなの愛が重すぎる的な感じのやち
第6話読了!クロノアくんの独占欲ヤバすぎて草🔥「俺のカミサマ」って拗らせ系主人公すぎん? でもトラゾーが「あなただけの神様」って言ってくれるシーンは尊死するかと思った。耳の痕に嫉妬して痕を重ねるの、独占欲と執着がダダ漏れでガチで刺さったわ。まだ「信頼」止まりなのに「俺で塗り替えたい」って昏い感情抱えてるところ、この先の展開が怖いし気になる! 神様堕とす気満々かよ…連載追わせてもらうわ🔥