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side Riva
omotiさんとの通話を切り、PCの電源を落とす。
真っ黒になったモニターに、自分の顔がぼんやり映った。
……ひどい顔。寝不足でクマだらけだし。
さっきは、ただ味方の士気を上げるために声をかけただけ。
それなのに、まさか仲良くなれるなんて。
ぎこちないのに、不思議とすっと胸に入ってくる優しい声だった。
「また話してくれるの、嬉しいな……」
そう呟いた瞬間、冷え切っていた胸の奥に、ぽっと小さな火が灯る感覚がした。
──1ヶ月前。
心も体も、すっかり空っぽになった。
ぷつりと糸が切れ、仕事を辞めた。
気づけば、私はずっと“ネットの中”でしか自分の存在価値を見出せない人間になっていた。
小さい頃から、歌うことが好きだった。
お父さんのお古のアコースティックギターを抱えて、よくカバー曲を歌った。
才能がなかったわけじゃないと思う。
高校時代は駅前で弾き語りをしたり、ライブハウスに出演したりしていた。
でも、親に「音楽では食えない」と強く反対され、音楽大学に行く夢は諦めた。
大学に進学してからは、音楽から距離を置いた。
触れたくても、触れてはいけない気がしてーー
歌うのは、本当に気分が乗った時だけになった。
卒業後、地元を飛び出し東京で働きながら暮らしてきた。
その中で、私を認めてくれるのは“インターネット”だけだった。
わたしは Riva という名前で、ネットの中に生きている。
仕事も恋愛も人間関係も、家族のことも──
何ひとつ、うまくいかなかった。
この1ヶ月は、必要最低限の買い出しと、PCに向き合うことしかしていない。
ネットの中で生きる私にとって、この生活が、かろうじて“生きている”と感じられる唯一の場所だった。
side mtk
僕が忙しすぎて、ここ2〜3日は彼女との連絡は、おやすみ、おはようなどの簡易的なやり取りだけだった。
スタジオと家の往復の毎日、疲れてそのまま眠りに落ちる日々。
今日は日付が変わる頃に帰ることができた。
スマホをみるとディスコードのチャット欄はまだ今日のおやすみ、はきていなかった。
今日なら話せるかも、と淡い期待を抱きスマホを操作する。
“こんばんは。リヴァさん、今帰ってきた。話したい。”
彼女はまた話してくれるだろうかーー
不安になりながらも送信のボタンを押した。
既読がつくまでの数十秒が、やけに長い。
──あ、ついた。
“おかえりなさい。私も、ちょうど起きてました”
“…話したいです。”
その一文を見た瞬間、心臓の奥の疲れが、少しだけ溶けた気がした。