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心狼@_shiro🤍🐺
帰宅した私がマンションのエントランスに入ろうとしたそのとき、建物の影から小太りの男性が現れておののいてしまった。
「翠々さん」
「うわっ! え、光永さん?」
私が帰宅するのを待ち伏せしていたのは、叔母に無理強いされてお見合いをした光永さんだった。
いつからここで待っていたのだろうかと考えたら気味が悪くなり、無意識にあとずさって距離を取った。
「どうしてここに?」
「翠々さんと話がしたくてね。ここの住所は君の叔母さんに聞いた。電話をしても出てくれないだろうと思ったから訪ねたんだ」
光永さんの言葉を聞いた私はうつむきながら小さく溜め息を吐いた。
いきなり訪問されたことに驚いたのは言うまでもないが、私の承諾なく住所や電話番号といった個人情報を勝手に教えた叔母に対して怒りが湧いた。
「お見合いの席ではご無礼致しました。光永さんのご両親も非常にお怒りだと聞いています。本当に申し訳ありません」
こんな場所で立ち話をするのは嫌だったが、こうなっては手短に話を済ませるしかない。
「君の部屋で話そうか」
「あの……それはちょっと……」
家に上げるのだけは絶対に避けたかったので、顔をこわばらせつつもやんわりと断った。
「へぇ、拒むんだ。……まぁいいや」
ニヤリと笑う光永さんの顔が不気味で仕方ない。
「先日叔母さんが謝罪に来てくれたんだけど、僕の両親がプライドを傷つけられたと言ってなじっちゃったんだよ。ろくに話も聞かずに」
私が叔母にコーヒーをかけられた日の前日の話だ。
朝一番に叔母は謝罪をしに光永家へ出向いたあと、出張に行ったと言っていたから。
「私も一緒に行って謝るべきだったんですけど、叔母が来なくていいと言ったのを鵜呑みにしてしまいました。すみません」
「いいんだよ。君の顔を見たらうちの母はさらに怒り狂ったはずだ」
光永さんはいったいなにをしにここへ来たのだろう?
叔母を追い返したことについて詫びるためかと思ったが……それならわざわざ私に会いに来る必要はない。
電話で済ませたらいいし、謝る相手も私ではなく叔母だ。
「翠々さんにもう一度チャンスをあげたくて来たんだ」
会話が止まるのと同時に考え込んだ私の様子をうかがいつつ、光永さんが再びニヤリと笑ってそう言った。
「チャンスって?」
「もちろん僕とやり直すチャンスだよ。君が考えを改めるなら僕が両親を説得する。マンションを追い出されて、ひとりで借金を返済していくのは大変だろう?」
「ま、待ってください」
どうしてそんなことまで知っているの?
光永さんが借金のことやマンションを追い出されるといった私の個人的な事情まで知っていることに驚いた。
叔母がすべて話しているらしい。これも私を追い詰めるためだ。
「叔母さん、考え直してほしいって僕に泣きついてきたよ」
「え?」
「あの子は家を追い出されたら行くところなんかないんだから、最後は言うことを聞くはずだ、って」
今の話は本当だと思う。叔母ならそう言いそうだ。
「借金だって、心配しなくても僕が肩代わりしてあげるよ。結婚して身も心も僕のものになってくれるなら」
光永さんのお母さんも一緒に三人で寝ると言っていた寝室で、彼は私を抱くつもりなのかと想像したら、気持ち悪くて顔から血の気が引いた。
「叔母がどう言おうと関係ありません。借金も自分で返します。家も出ます。それでも私はあなたとは結婚しません」
強気だな、とでも言いたそうな表情で、光永さんが私を見ていた。
「ウソじゃありません。なんなら、今すぐ出ていきます。保証人なしでも借りられる部屋を探しますから」
そう言って、私はスマホを取り出し、不動産サイトを開いた。
「結婚を渋るのは、寝室の件が引っかかっているからだろう? それはこちらも善処するよ」
「それだけではないです」
「このままだと叔父さんの会社とのビジネスを辞めることになるよ? いっさい手を引くってパパが言ってる。それは困るよね?」
光永さんの言葉を聞いた途端、私の身体にゾワゾワと鳥肌が立った。
この人はニヤニヤと気味の悪い笑みをたたえてはいるものの、私を脅しているのだ。
「うちがどれだけすごいビジネスをしてるか、君は知らないんだ。慎重に決めなきゃダメだよ」
「そ、それは……」
「叔父さんの会社、潰れてもいいの?」
光永さんがグイッと一歩近寄って、強引に私の手首を掴んだ。
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