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R
23
#執着
さぶれ
1,448
「じゃあな……」
背中越しに声が聞こえて、せめて玄関くらいまで送ってくれないのかなと思う。
(もっと、ううん……もう少しだけでも、いっしょにいられたら……)
「こんなかっこうじゃ、送ってやれなくて悪いな……」
そんな身勝手な未練を断ち切るかのように、彼の声がリビングから飛んで、靴を履きかけていた足が止まる。
嘘……きっと、わかってる。
私の気持ちなんてとっくにわかっていて、そうしてわざとそんな風に言ってるのに違いなかった。
嘘つき……そんな口実なんて、下手すぎる。
またあふれそうになる涙を手の甲でぐいと横に拭って、
「じゃあ、帰りますね……!」
なるべく明るい声をかけて、ドアを開けた──。
開いたドアが閉まるまで、後ろは振り返らずにいた。
もし、ドアの向こうに彼の姿が見えても見えなくても、どちらでもよけいに辛くなってしまいそうだったから……。
もう、忘れなきゃいけない。だって、彼には彼の彼女がいて、私には私の……。
エレベーターの上昇ボタンを押して、上がってくるまでの間になんとか気持ちを切り替えようと、パンッと自分の頬を両手で叩いた。
うじうじ泣いてなんかいないで、彼氏に連絡をしないと。春樹が、心配してたじゃない──。
張り詰めた気持ちをふぅーっと息を吐いて落ち着かせると、思い切って電話をかけた。
「ああ、舞か! どうしたんだよ、おまえ。さっきも電話が切れただろ?」
本当に心配をしていたらしく、春樹が切羽詰まった声で応える。
「うん……ごめんね。ちょっと急用ができちゃって……昨日は行けなくなって。すぐそばまで来てるから、もうそっちに行くから……」
歯切れの悪いしゃべり方しかできずに、胸の奥に罪悪感が押し寄せる。
「そうか、おまえに何もなかったんならいいが……あんまり心配させるなよ」
「うん、ごめんね……」
心配させるなと気づかわれると、彼への申し訳なさは、さらにつのった……。
「……じゃあ、これから行くね」
電話を切ると、着いたエレベーターに乗り込んだ。
誰もいない閉じられた密室の中で、ふと唇に指で触れてみた。
『忘れないでいろよな……俺のキス』
鷹騰社長の言葉が頭をかすめる。
「……したかったんだよ」だなんて、あんなこと言って……。
キスされた唇を人差し指ですーっと横になぞると、もし忘れないでいたら……、
一体どうなるっていうんだろう……と、ぼんやりと思った──。
コメント
1件
えーん……読んでて胸がぎゅーってなったよ😭💔 舞ちゃんの「明るく振る舞おうとする」感じとか、エレベーターの中で唇に触れるシーンとか、切なさがじんわり染みた……。 あの「忘れないでいろよな」ってセリフ、思い出すだけでまたドキドキしちゃうよ〜!! 春樹くんもいい人そうで、それもまた辛いなあ…。次、どうなっちゃうの気になるー!!🌸