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慣れ親しんだ初めての音

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慣れ親しんだ初めての音

3 - 寂しいだなんて思わない

♥

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2024年05月20日

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あくまで個人の趣味であり、現実の事象とは一切無関係です。

スクショ、無断転載、晒し行為等はおやめください。



風邪を引いたら、寂しくなるなんて嘘だと思う。

実際、今の俺がそうだし。でも周りの奴らは決まって寂しいと言う。それで友達や元カノに呼び出された事もあるくらいだ。

ガンガンする頭や、止まない寒気と格闘しながらそんな事を考える。

久しぶりに引いた風邪は想像以上に酷かったらしく、まともに動く事さえできない。偶然にもオフだったのが何よりの幸いだ。ただ、異様に頭が冴えているせいでこんな意味のない事まで考えてしまっている。今、寂しいかと言われれば別にそんなことはない。元カノは寂しいから来て欲しいなんて言っていたが、本当に寂しかったのだろうか。それとも風邪を引いたら恋人に連絡するのが様式美だからだったのか。

じゃあ俺の場合、ボビーに連絡を入れるのが相場なのか。昨日話していた記憶を振り返ると、確か今日は予定が何もない完全オフだと言っていた気がする。だったら「風邪を引いたから会いに来て欲しい」と連絡してみるか。そう考えたが、そんな気は起きない。だって、せっかくのオフなんだからゆっくり休んで欲しいじゃないか。アイツにだって人付き合いはあるし、おひとり様でも楽しみたい事くらいあるだろうから。俺のせいでしたい事が制限されるのはよろしくない。

我ながら珍しくしおらしい事を考えてしまって、熱も何も関係なく鳥肌が立った。風邪で頭もおかしくなったみたいだ。

熱が上がってきているのか頭がボーッとする。


このまま死んでしまったりして。


縁起でもない「もしも」を考えれば、脳裏に浮かんだのはヤツの顔。もし死ぬなら、最期は恋人の顔くらいは見させて欲しい。

そう思ったら、さっきの杞憂など吹っ飛んで即座にスマホを手に取った。


家に来て、死ぬかもしれんから、会いたい


メッセージに思いついた内容をそのまま打ち込んで送信した。それだけで少し満足した気がして、スマホを放り投げそのまま目を閉じた。

「…き、にき…ニキ」


ボビーの声がしてゆっくり目を開けたら、案の定そこに想像通りの男がいた。


「ボビー、だ…」

「あんなメッセージ送ってきて、なんかと思って飛んできたらお前、熱あるやん」

具合どう?って頭を撫でる手が気持ちよくて、欲のままに擦り寄る。おでこの違和感は冷えピタか。


「おれね、さみしくなかった」

「ん?」


脈絡のない話を始めたが、ツッコむでもなく優しい顔で続きを促してくれる。


「風邪ひいたけど、さみしくなくて。でも、もしこれでしぬなら…ボビーのかおが見たいって、おもった」

「ニキ、抱きしめてええか?」

「ん、」

よく分からなかったが、問いかけに頷き腕を伸ばす。抱きしめてもらえるのは嬉しいから好き。抱き起こされて、跨るように座った。ボビーごと毛布で包まれながらギュッと優しく抱きしめられる。

「ニキは寂しくないって言ったけどな、顔が見たいって思ったその気持ちが寂しいって事やと思うで俺は」

「そう、かな」

「うん。ひとりじゃなんも出来んくらい辛くて、もし死んだらなんて事を考えてまうぐらい寂しかったんやないの。多分」

「さみしい」

僕は寂しかったのだろうか。ボビーの言葉の意味を考えて口にすればボロっと涙が出てきた。あれ、なんで、どうして。パニックになっていればゆっくり背中を叩いてくれる手に安心を覚えた。

「ニキは自分の気持ちに気づけてなかったのかもしらんな。いつもよぉ頑張っとるから、考えんようにしてたんやろ」

「ひっ、ぼ、びぃ」


力一杯抱き付けば、ここにおるよと抱きしめる腕を強くしてくれた。


「俺はずっとここにおるから。ニキは寂しくないから。だから今はゆっくり寝とき?」

「ずっと、いる?」

「もちろん。起きるまで離れてやらん」


だからもう寝ろと言われ急に瞼が降りてきた。再び起きた時、もっとまともな頭で話が出来ればいいなと願いながら意識を手放した。

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コメント

1

ユーザー

凄く好きです、可愛い...。最高な作品をありがとうございます🤦🏻‍♀️💕

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